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バレエ鑑賞超入門 実践編(4)

(とりわけ教養主義の男性向けに)

実践編(4) 「全幕モノ」バレエ鑑賞(3)

前回はあなた(「男一匹」な教養層のオッサン。バレエをまともに見るのは初めて)が「全幕モノ」バレエを見に一人で劇場まで足を運んだ、というような想定で、「グラン・パ・ド・ドゥ」とは何か、というところまで話を進めました。

さて、今回はもうちょっと細かいところを見ていきます。
(といってもあくまで超急造な鑑賞者にも役に立ちそうな範囲で。)

観客から拍手が出る「名技」

バレエを見ていると時々、踊りの途中でも観客がワッとわいて拍手が出ることがあります。
こういうのは、クラシック音楽のコンサートとかではまず見ない光景なので、好楽家の方は面食らうかもしれません。
……歌舞伎とかならあるのかな?

バレエマニアの方がこういうのを好ましいマナーと考えているのか悪弊と考えているのかは私にはわかりませんが。
とにかくこういう拍手が起きるのは間違いなく踊り手が素晴らしい超絶美技を披露しているときです。

そんなわけで、どういう踊り(名技)に拍手がでるのかを知っていると、きっとバレエ鑑賞が楽しくなるのではないでしょうか。

で、実は(バレエ素人の私が見る限りでは)実際の鑑賞にあたってこういう拍手が出るシチェーションの多くは、以下の「ワザ」が出たときです。
なので、これだけ覚えていれば、あなたもいっぱしのバレエ通っぽい顔ができるかもしれません(?)。

1.マネージュ
2.フェッテ

個人的にはこの2つだけ覚えておけばいいんじゃないかと思います。

【こう書いてきて、実はあまり用語に自信がありません。どこかで間違えているかもしれませんので、その点、先にお断りしておきます。なお、間違いに気づかれた方は下のコメント欄などでご指摘いただけましたら幸いです。】

覚えておくと良い(かもしれない)ワザ2つ

1.マネージュ(Manége)
 ……とは舞台をぐるっと一周する動きです。男性のバレエダンサーならすごく豪快に飛び回る感じになります。
(これを正式には
Coupé Jeté en Tournant en Manége
クペ・ジュテ・アン・トゥールナン・アン・マネージュ……と呼ぶそうです。)

女性については同様にする場合もあるけど、くるくる回りながら一周する場合もあります。
(これの正式名称も調べたのですが、よく分かりませんでした。)

マネージュというのが具体的にどういうものかは、以下の動画をご覧いただくのが早いかと思います。

(男女それぞれの例あり)

(女性の別パターン)

2.フェッテ(Fouetté)
 ……とは、片脚をピンと、いわばコンパスの軸のように舞台に突き立て、もう片方の脚は地に一切つかないで、何度も何度もくるくるコマのように回る超絶テクニックです。
(正式には Fouetté en tournant
フェッテ・アン・トゥールナン……と呼ぶそうです。)

下の画像でもなんとなく分かるかもしれませんが、

画像1

画像2

おそらく実際の動画を見ていただくのが一番早いかと思います。

これで32回転する、いわゆる「32回フェッテ」はいくつかの古典バレエのハイライトとなっています。

なお、フェッテの変種(というのともちょっと違うかもしれませんが)として「イタリアン・フェッテ」というのもあります。
(正式には Grand fouetté en tournant
グラン・フェッテ・アン・トゥールナン……と呼ぶらしいです。)

画像3

これも動画を見ていただければと思いますが……
(5分50秒あたり。下の動画には一応時間指定を入れましたが、うまく指定の時間に飛ばないようでしたら手動で時間調整してください。)

軸足でない方に上げ下げのモーションがついて、フェッテに比べてゆったり、優雅な感じになるのかなと思います。

さて、こうした「ワザ」が出ると、ノリのいい観客なら踊っている最中から盛んな拍手が出ることは先に書いたとおりです。

では、バレエ鑑賞初心者であるあなたはどうするべきか、ですが。
無理に拍手する必要はもちろんありません。
でも、周りの人が盛んに拍手していて、あなた自身も「すごいな〜」と素直に感嘆するようなら、大いに拍手をすれば良いのではないか、と思います。

個人の名技と群舞(余談)

バレエをただ上品で霊妙な踊り、とだけ思っていると、こうした「ワザ」で拍手が出ることになんとなく違和感を覚えるかもしれないですね。
が、実際にはバレエというのはただ上品にしずしずと踊るだけでなく、激しく踊ったりハイテクニックを誇示したりする(そして、観客がそれを拍手で褒める)といった俗っぽい(?)面もあるのです。

この辺りの事情は、正直私にはよく分からないのですが、こういうのは、やはり西洋(には限らないかな?)の表現芸術にある、個人技を楽しむ伝統から来ているのかなと思ったりします。

クラシック音楽の歴史などを思い浮かべても、オペラのカストラートとか、バロック時代の協奏曲とか、あるいは19世紀の「名人芸の時代」とか、そういう華やかな個人技によって発展した楽曲ジャンルがいろいろ思い出されますね。

ここでさらに話は飛びますが、実は私が古典バレエで一番好きな(楽しく鑑賞できる)演目は「コッペリア」です。で、その中でも群舞である「マズルカ」のシーンがいっとう好きなのですが。

(参考)下のビデオ(公式が上げているものだと思います)の6分27秒あたり。下の動画には一応時間指定を入れました。

こういう群舞が一番好きとか言うのは、バレエマニアの人から見ると「浅い」感じなのかもしれないなと思うことがあります(あくまで個人的感想です)。

バレエ通と言われる人達が一番注目するのはなんと言っても「プリマバレリーナ」とかであり、バレエというものはまず何をおいてもそうした「花形ダンサー」の踊りを楽しむものだという歴史的な価値観がどこか根っこにあるような気がするのです。
(思えばオペラとかでもそんな感じかもしれませんが。)

真のバレエマニアなら、贔屓のバレリーナさんの一人もいて、その得意な演目も知っており、その妙技なりスター的なオーラなりに酔いしれるためにバレエ劇場に足を運ぶものである。
……といったような。

一方で、群舞を担当する踊り子の皆さんを「コール・ド・バレエ」(仏 Corps de ballet)(英語に直訳すると“body of the ballet”)と言うのですが、私は、気のせいでしょうか、なんとなーくこれに「その他大勢の皆さん」といったニュアンスを感じてしまったりもするのです。いえ、ろくにバレエを知らないものが、いい加減な印象論を語ってるだけという可能性も高いのですけどね(^_^;)。

でもまぁ、バレエ初心者のあなたは(そして私も)そういうことはあまり考えず、ソロでも群舞でも、好きなように愉しめば良いと思います。
それに古典バレエの華とも言われる「バレエ・ブラン」は絶対に一人では実現できないのですからね。

(「バレエ・ブラン(白いバレエ)」とは何かについては、個々でお調べください……と書こうかと思ったのですが、ざっくりどんなものかの一例を解説抜きで掲げておきます。)


補記:今回紹介の動画はYoutubeから、著作権的にさほど問題なさそうな動画を「えいや」で見つくろったものです。
もっといい動画も探せばきっとあるのでしょうが、とりあえずの参考としてお使いください。
また、トップ画像は前回と同様、ネットの無料画像を利用しました。