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バレエ鑑賞超入門 実践編(3)

(とりわけ教養主義の男性向けに)

実践編(3) 「全幕モノ」バレエ鑑賞(2)

前回はあなた(「男一匹」な教養層のオッサン。バレエをまともに見るのは初めて)が「全幕モノ」バレエを見に一人で劇場まで足を運んだ、というような想定で、話をある程度進めました。
どんなストーリーの作品なのかも既に頭に入っています。

後はとにかく見てみるのみ……ということで別にいいと言えばいいのでしょう。

ただ、バレエの踊りというものがどういう風に組み立てられているかを知ると、もうちょっと鑑賞しやすくなるのではないかと思います。

とは言え、バレエの踊りのすべてを解説するなどということは、もちろん私には無理です。なので、そういうのは最初に紹介した鈴木晶先生の本などに譲ることにして、以下には「普通の入門書にはあんまり書いてないような気がする」初心者向け鑑賞ポイントについて書いていこうと思います。

パ・ド・ドゥの構成

「パ・ド・ドゥ」と言う言葉ぐらいは割と聞いたことのある人も多いんじゃないかと思うのですが、その指し示す中身(とでもいいましょうか)がどういうものなのかを知っている人は意外と少ないのではないかと思います。
(かく言う自分も、真面目に見始めるまでよく分かっていませんでした。)

フランス語も嗜む教養派オジサンなら パ・ド・ドゥ “Pas de Deux” が「二人のステップ」、つまり「二人組の踊り」の意味だということはパッと想像がつくかもしれません。
でも、バレエで「パ・ド・ドゥ」と言ったときは、単に二人組で踊るというだけの意味では「ない」と言ったほうが良いようです。

筆者は基本的にバレエ素人なのでアレですが、Wikipediaによれば「同性2人による踊りは『デュエット』といい、パ・ド・ドゥとは区別される」とのこと。

バレエで「パ・ド・ドゥ」と言った場合にまずイメージされるものは主役の(愛し合う)男女が踊る一連の踊り、「グラン・パ・ド・ドゥ」であると思います。
(古典バレエのクライマックスとなるのが、基本的にこの「グラン・パ・ド・ドゥ」であると考えて良いでしょう。)

で、繰り返しますが、その「グラン・パ・ド・ドゥ」は、ただ二人が踊るというだけのものではなく、ちゃんと構成があります。
好楽家の方なら、古典派の交響曲が大体4楽章から成っていて、第一楽章はソナタ形式、第二楽章は緩徐楽章……みたいに構成されていることを思い出しても良いかもしれません。

で、その構成ですが、大体4つの踊りから構成されていると言って良いでしょう。

1.アダージョ
2.男性のヴァリアシオン
3.女性のヴァリアシオン
4.コーダ

意味がよくわからないと思われるかもしれませんが

素人ならではの凄くざっくりとした解釈で典型的な流れを説明するならば以下のような感じ。

「パ・ド・ドゥ」の4部構成

物語が進んでいよいよ話も大づめというところです。さて……
(1)アダージョ
まず主役二人の男女が登場し、優雅な(ややゆったり目の)踊りをおどる。

【アダージョは音楽用語では「緩やかに(♩=56~63程度)」の意味ですが、バレエでは単に「そんなに速くない踊り」ぐらいの意味であり、音楽のテンポとしてはむしろ「アダージョ」ではないことも多いでしょう。】

(2)男性のヴァリアシオン
踊り終わったふたりは一旦舞台袖に下がる。
そしてひと呼吸おいて次に男性主人公が舞台に登場し、一人で踊る。

主役の一番の見せ場ですから、主役のキャラ性が生きるような踊り。そして大抵はダイナミックで派手なテクニックを駆使した、華やかな踊りであるはずです。

【ヴァリアシオン(仏語)はつまりヴァリエーション(英語)。音楽用語なら「変奏曲」とかの意味になりますが、バレエ用語のヴァリアシオンは全然意味が違います。
役柄、あるいは踊り手のキャラクター性を最大限に発露する、見せ場としてのソロの踊り、ぐらいの意味でしょうか。
(もし間違っていたらごめんなさい。)
これについて、Wikipediaには「オペラにおけるアリア」に相当するもの、というような記述がありますので。そんな感じの踊り、と、とりあえず考えておけば良いのかな、と?】

(3)女性のヴァリアシオン
男性主人公が舞台袖に下がる。
ひと呼吸おいて今度は女性主人公(ヒロイン)が舞台に登場し、一人で踊る。

上と同様、ここではヒロインが華やかな踊りを踊る。……と言いたいところですが、女性の場合は、そこまで見た目ダイナミックではないこともあるような。
むしろ、自らのキャラクター性に沿った軽やかな踊り(でもきっと、テクニック的には難しい)だったりするかもしれません。

(4)コーダ
女性主人公が舞台袖に下がる。
ひと呼吸おき、最後に改めて主役の二人が舞台に登場。あらゆる技巧を駆使したアップテンポな踊りで華やかに締める。

【コーダは音楽用語なら、曲の終結部分に付け足される「締めの楽想」を言うわけですが(つまり、独立の曲ではない)、バレエ用語の「コーダ」は上記のように、「グラン・パ・ド・ドゥ」の締めの(第4番目の)踊りを指します。当然、一つの独立した踊りです。】

中にはこの流れに従わないものもあるかとは思いますが、だいたい当たらずといえども遠からず、ぐらいの説明にはなっているのではないかと。
(2と3は入れ替わることもあったような気がするけど、気のせいかもしれません。)

実例

ビデオはバレエ入門に向かないと先に書いていたくせになんだと言われるかもしれませんが。
バレエの話を文字だけで済ますのはあまりにも味気ないので。一応、実例のビデオをご紹介しておきます。
ロシアのマリインスキー劇場公式チャンネルがアップロードしている「眠りの森の美女」。
ここでは第3幕の「グラン・パ・ド・ドゥ」を見ていただこうと思います。
時間にして2時間16分55秒あたりから(一応時間指定を入れておきましたが、うまく指定の時間に飛ばないようでしたら手動で時間調整してください)。
上の解説では端折った「アントレ(入場)」の部分から、アダージョ以下へと続いていきます。

補足1:「パ・ド・トロワ」とか

なお、物語のクライマックスである「グラン・パ・ド・ドゥ」に限らず、バレエの途中で出てくる「パ・ド・トロワ」(Pas de Trois)つまり「三人組の踊り」とかでも、こういう形式がよく使われると知っていると、バレエの流れが分かりやすくなるんじゃないかと思います。

つまりこの場合だと、
・まず3人で優雅に踊る(終わると一旦舞台袖に引っ込む)
・次に、3人それぞれが、一人一人個別に出てきて、各々のキャラクター特性を示す踊りを踊る(それぞれ、自分の踊りが終わったら舞台袖に引っ込む。そして次のキャラが舞台に出てくる)
・最後に、改めて3人で華やかな(アップテンポな)踊りを踊る

……みたいな感じです。

補足2:「ガラ公演」などでの使用

ところで。この「グラン・パ・ド・ドゥ」は古典バレエのクライマックスであるだけに、踊りとして華やかなです。
なので、この部分だけを抜き出して舞台に掛けることもあります。
あるいはさらに「グラン・パ・ド・ドゥ」を構成する4つ踊りのうちのどれか一つを抜き出して……ということもあります。

あとで書く予定の「ガラ公演」とは、すごく雑に言えば、いろいろな作品から、それぞれの一番の見どころになるような踊りだけをより集めて一つの公演としたもの、と言ってもいいでしょう。
当然、そこには「グラン・パ・ド・ドゥ」(や、その一部分)が選ばれることが多いです。

また、(これもあとで書く予定の)「コンクール」では、上に書いた「グラン・パ・ド・ドゥ」中の「ヴァリアシオン」が課題として選ばれたりします。
(ソロで踊る、難易度高い踊りとなれば、当然、コンクールの審査向きというわけですね。)

余談ですが。
バレエ好きの人がしばしば《「眠りの森の美女」第3幕、オーロラ姫のヴァリアシオン》なんていうことをおっしゃって、それで普通に会話が成立してるのを、かつての私は「なんだかすごいなー」とか思ったりしました。
でも、その後で、
「考えてみれば、クラシック音楽好きならベートーヴェンの第7交響曲第2楽章とか言うだけでパッと曲が思い浮かぶんだし、バレエ好きの人ならそれくらい当然なのかな」とも思ったり。

もちろん、そういった機微も当然あるでしょう。が、さらにその後で分かったのですが。
そもそもバレエを習った経験のある人だと「発表会のため」とか「コンクールのため」とかいうことで定番のヴァリアシオンはウンザリするほど繰り返し踊ったりする(あるいはそういうのを脇で見る)ようで。
当然、良く出るヴァリアシオンの名前などは否応なく体で覚えてしまう……という事情もあるようです。

追伸

「パ・ド・ドゥ」は4部構成でなく、最初にアントレ(入場)を入れた5部構成として説明するべきでは、というご指摘もあるかと思うのですが。
ここは素人の蛮勇で4部構成と書いてしまいました。
そのほうが素人には分かりやすいとおもったからです。
……が、やっぱり問題があるかなと思ったらあとでコッソリ修正するかもしれません(^_^;)。

補足:本記事のトップ画像はネットで無料画像を適当に検索して見つけたものです。