忘れられない恋物語~どうしても無理だった

いつから、彼が好きになったのだろう。
不思議なことにきっかけが一つも思い出せない。
最初は挨拶も返してくれない無愛想な人だなぁと思っていた。
長年働いてるパートの子だと聞いていたけど、仕事はするが協調性はない。日常会話はしない。そっけない。ほかの社員からはそう聞いていた。
それでも私は正社員の立場として毎朝挨拶をし、勤怠終了のお疲れ様の言葉もかけ続けた。
半年を過ぎた頃、ようやく挨拶だけ返してくれるようになった。
そもそも挨拶も返さない人をよく雇い続けているな、と思ったけれど、仕事はきちんとこなすのだ。それに私の仕事は、いわゆる汚れ仕事。世間から見れば底辺の仕事なのだろう。とにかくいつでもどこでも人不足な職種だ。
そして仕事に応募してくる人も、続く人たちも変わった人種が多い。
いわゆる一般では働けない人たちが集う職種なのだ。

彼は、その職種の中では若い方だった。
なぜこんな仕事をしているのだろうと社員仲間に聞いたら「掛け持ちだよ、彼在宅ワークだから」と。なるほど、と思った。ずっと家の中も退屈なのだろう。体力勝負の仕事だし、バランスが良いのかもしれない。
それでも半年以上はそれ以上は知らずに居た。
何がきっかけなのか思い出せない。挨拶が返ってくるようになり、自分自身もその職場に慣れてきて、パートさん達の性格、仕事の出来が見えてきて、彼が予想よりもずっと仕事を頑張っていることに気付いたからだ。しかも彼は他の人が嫌がるような仕事も何も言わずにやっておいてくれる。汚れ仕事も体力仕事も、気になっていたけど社員たちは後回しにしてしまっていた仕事も気が付くと彼が片付けていてくれたのだ。

そのことに気付いた時から、彼のことが気になりだした。
ありがとうね、と御礼を何度も伝えた。
もちろん彼に対してだけでなく、他のパートさん達にも平等に接していたつもりだけど、気が付くと……彼はいつの間にか私の近くに立っていた。
朝の朝礼や何かの集まりの時、誰がどこに立つかなんて決まっていなかったが、彼はいつも社員から一番離れた場所に居たので、なぜ私の真横に立つのか不思議だった。
そして嬉しかった。
私が他愛ないことを聞いても答えてくれるようになったり、私がどうしようと悩んで、パートさん達に質問してみると彼が一番に答えてくれたり、率先して手伝ってくれたりと…。

自覚してしまえば、恋は簡単に暴走してしまう。
それでも社員とパートの立場、職場での恋愛は自分的に無しだったので、気持ちを必死に抑えてこんだ。それなのに、抑えようとすればするほどに、抑えきれないのが恋心なのだ。

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