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愛と自省を込めて

「いつまでもつだろうか。」
「次に不安が押し寄せてくるのはいつだろうか。」

この休日にアマプラで映画『劇場』を観た。映画館と同時に配信されると聞き楽しみにしていた。演劇の夢を追う永田と彼の才能を信じる沙紀との恋愛模様を描いた行定勲監督作品。
劣等感が強く、否定されることが怖くて相手を傷つける発言をしてしまうようなプライドの高さと繊細さを持つ永田を、柔らかい笑顔で寄り添い支える沙紀は、いつだって彼が欲しい言葉を与え、同時にどこか自分を擦り減らしていた。

気づけば映画に没入し、二人の生々しい感情に心が抉られ完全に打ちのめされてしまった。


「ここが一番安全な場所だよ。」

二人の世界は1Kの小さな部屋。時間が経つにつれ安全であったはずの「場所」がゆるやかに壊れていく様を見て、みぞおちを強く押された気分になった。

永田はあの頃の私だ。

注がれる優しさと愛情を当たり前にあるものだと勘違いし、その上「許されている」なんて思い違いをしていたあの頃の自分がそこにいた。苦しい、苦しい。予期せず自分の中のぐちゃぐちゃとした感情を曝け出され、苦しくて堪らなかった。相手の優しさに苛立ちを覚えてしまう気持ちも、愛情の濃度が変わっていくことに気づかないふりをしてわざとらしくおどけてしまう気持ちも、好きで好きで堪らない気持ちも、相手を失った後の自分を考え感じる恐怖も、抉られるほど生々しく流れ込んできたのは、永田を通して自分を見ていたからだ。

狭い部屋の中、相手と自分の二人だけなのに、どうしたって身近な存在に目がいかないのだろう。くだらないことで笑い合い、その日あったことを報告しあって、手をつなぎながら寝る。些細なことを愛しく大事に思えていたら、なんて反省にも似た意味のないことを考えてしまった。
あの頃からいくらか大人になった今、果たしてできてるのだろうか?そんなことも考えてしまう。

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スクリーンで観るべき作品だった。
エンドロール後も続く余韻に浸りながら、剥き出しにされる感情と向き合い苦しみたいとさえ思う。

蒸し暑い夏の夜に合う映画でした。もう一度観よう、次は映画館に足を運んで。