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ウクライナ問題で「増収・減益」のワケ。


2023年3月期の4-6月(1Q)決算が出揃いつつある。目立つのは「増収・減益」というキーワード。こと素材系メーカーにおいて顕著だ。

 IMFによれば、4-6月の世界経済は、ウクライナ戦争に端を発する欧州地域の不透明感に加え、インフレを背景とした米国における消費者支出の停滞、昨年から続く半導体等の各種部材調達難に上海をはじめとする中国ロックダウンの影響が重なり、マイナス成長となった。
世界経済見通し 改訂見通し、2022年7月 (imf.org)

 このような中、各企業が増収を見通す理由は、いわゆる資源高の影響である。資源価格に売値が連動する仕組み(例:ナフサフォーミュラ等)を採用していたり、あるいは自助努力で到底吸収しえない水準に達した価格高騰に際し、シェアダウンを辞さない価格交渉を繰り広げたりしているわけだ。

 大げさに表現したが、所詮、勝ちの見えた勝負である。コロナ禍で急減した需要の、直後の急回復に、サプライサイドは未だ追いつけていない。加えて、老朽化する生産設備、激甚化する異常気象、混乱する物流網により、フォースマジュールを発令する企業が世界的に相次いだことも記憶に新しい。交渉は、選択肢の多い方が有利である。同時に、サプライヤー側はこの異常事態の鎮静化を見据えた振る舞いも必要である。長い目で見れば、やはり買い手が有利なゲームであることに変わりはない。

 資源高騰がどの程度か。例えば、脱炭素の潮流において、忘れ去られた資源と目されつつあった石炭は、「黒いダイヤ」としての輝きを取り戻している。原料用石炭は、鉄鋼生産の停滞と、その独特の商習慣(スポット比率が低い)を受け、200$/MT程度まで減少したものの、発電量の一般炭は、400$/MTと平時の4倍近い水準である。
「石炭価格動向(2022年7月)」カレント・トピックス掲載 | JOGMEC 石炭資源情報
天然ガス、原油、その他の金属資源も、コロナ禍と戦争により、ゲームそのものが変わってしまった。

 減益。つまり売上が増えるのに、収益が減っている理由も、同様である。コロナ禍にて上昇し続けた各種原材料、燃料価格は、ウクライナ戦争によりもう一段違う次元で、鋭角に急騰した。3月に本格化した戦争の影響を、翌日から全額転嫁できるわけではない。年度で切れば、必然的に減益になってしまう。
 物事が正常化したあとはどうなるだろう。需給環境が変わらなければ、次年度は、減収・増益となる確率が高い。上記の逆で、先に原材料、燃料価格が下がり、徐々に製品価格が下がっていくからだ。単純な話である。
 
 さて、単純ではないのは、中間メーカーや加工業者の存在だ。サプライヤー側からの津波のような値上げと頑固な末端ユーザーとの板挟みが果てしなく続いている。「計画・納期遵守」という日本の信条は、今や崩壊の危機に瀕している。積みあがる仕掛品は、キャッシュフローを細らせる。

 某大手自動車メーカーの第一四半期決算にて、
「供給制約による販売台数の減少や資材高騰の影響が大きく、減益」
「サプライチェーン全体で中長期にわたる競争力の強化に取り組むため、足元の厳しい事業環境による仕入先の負担を、当社が一旦受けとめる -資材高騰による仕入先の負担には、購入品の価格等において 事前に合意したルールの実行に加え、困りごとにも対応」
と出たので、景気循環のさざ波が立ち始めたことは歓迎したいのだが。

 モノ不足から早2年。浮かぶのは、資金力のある、わかりやすく成果に直結する大口の得意先ではない。苦悶の表情を隠して数度の価格改定を了承してくれた、中小企業の経営者たちの顔である。彼らが頑張れるうちに、十分な波が、日本経済に行き渡ることを切に願いたい。

何かのお役に立ちましたなら幸いです。気が向きましたら、一杯の缶コーヒー代を。(let's nemutai 覚まし…!)