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記事一覧

臨界点

土のなか
融解する
プテラノドンの背骨
眠ったままのわたし
の瞳、が
それをとらえている

緩やかな熱
あなたの額と
同じ温度
同じリズム
ゆっくり、ゆっ、くり
コップのふちを撫でる
そうすれば、きっと
来てくれるから

グッピーの
尾鰭を
つかまえたと
末の妹が手を開いた
瞬間
赤信号
連れていた
犬のムックだけ
もう反対側にいた

拝啓、
サクマドロップも
あとひとつ
永久凍土の丘の上
ひとり

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砂上にて

メルヒェンは

埋もれた 古代都市の顔

メスですっと切り開いたような ここは

トランペット吹きのこどもだけが

やってこれるのだが いまは

「雨だ」とつぶやく人もなく

押し付けるように 滴

滲み 不在通知が

風にあおられている

冬至におきた 裏切りは

月面にも似て 優しい

ジャッカルの 肥大しすぎた影を

薄くのばし 残さずたべる

足元から 脆く

崩れ去っていく 秘密

と 

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無機質な色のキッチンに ことり

置かれたまな板 と洗いたての檸檬

ひかるナイフが

家主の行方を知っている わけもなく

わたしは ここに 居て

水草の繁茂する アクアリューム

体の小さい 一匹の黒い金魚

瞳 見つめ返されて のみ込まれる 

私の実在

ということ

顔さえあげれば

すべてが報われる だなんて

と今朝方返却された答案用紙の裏に書きこみ

結わえた髪を すこし食み

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路傍

白鳥たちの

鮮やかな デイドリーム 

彼らが 北へ飛び立つのを 合図にして

遠ざかっていく 冷めた音 とても煩い

耳を塞ぎ 力いっぱい走って

ふと たどり着く

辻 ひとつ

影は双方向に のび

あなたのものか わたしのものか

判然としない

春の気配 充ちていく 池の底

正しい所作で眠りについて 沈み込む 

という救済措置のはなし

半透明で どこか

無責任だ

と誰かがささ

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川面

そこに
たしかにあったような気がしていた
くすんだ色の写真と 絹製の肌着
手触りを 確かめて 思わず
唇を触る 癖 どこかで
まだ覚えている 夢のこと

潜水
魚の瞳が こちらを見返すまえに
はっ、とする
蒲公英の綿毛 陽を浴び 上昇 
長く続いた 雨
上がった日の 隣人の横顔に似て
どこか やましく
川辺に影を潜めていた 昨夜の寝言 携えて
飛ぶさまは いつになく
たのしそう であった

一つの

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Haze

昼下がりの 表情 
住宅街では 躑躅のささやきだけが
ひたひたと波打ち その動きが
あたりの透明さを 保っている

子どもが来る前の
公園に置かれた 滑り台の頂上より
匂い立つ かつての指切り
昔から決まって
破られるのは いつも陽が沈んでから

十字路で 見つめあって
慄然とする 素肌
瞬き一つで 輪郭を見つけて
大きなこの手で 触れてしまえば
すぐに 壊せそう

電柱の影で
さめざめと 泣いて

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薄明

生まれたての微熱は
絹糸をたどり
アサガオの葉脈を伝い
わたしの胸のなかへ
帰ってくる

「桜貝は あなたのいろ」
彼方の群青に呼びかける
はじまりの朝は
せーのと声がしたら
飛ばなくてはいけない

合図の声はまだ
一万光年離れた星を
飛び出したばかりで
安らぎと酩酊が
ここには蔓延っていたりする

明け方と見紛う
暮れ方の

眠っている世界樹は
次の踊りを待ちながら
葉を揺らす

オアシスか

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