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【旅行記】THE FOOL~なげやりな一人旅~<後編>

防府から小郡まで電車に乗って、小郡から東萩までバスで1時間ちょっとの旅。

防府から東萩までのバスもあることはあるが、時間が合わないし、数が少なかったので小郡まで出たのである。

バスの料金は2,080円。結構するので驚いた。
丁度シーズンで、便乗値上げっぽいところもあったな!
半端な80円は消費税だろうか?
う〜ん、貧乏人の敵めっ!

などとブツブツ言いながらも、高速で走るバスは気持ち良かったりする。
修学旅行に来た時も感じたが、こっちの自然は肌に合う。
ひどく懐かしい気がする。

私は遠くに来たというより帰ってきたという感覚に浸っていた。
前世はこっちの人だったのかな? なんてね。


東萩の駅に着いたのはもうお昼近くだった。
まだホテルにチェックインできる時間ではなかったので、荷物をコインロッカーに預けご飯を食べに行こうかな…
と考えていた私の目に
「荷物無料預かります」
の看板が入ってきた。

それは貸自転車屋の看板であった。自転車を借りている間、荷物を預かってくれる訳だ。

(う〜ん、どうせ街の中を見て回るなら自転車があったほうが便利だろう)

と、コインロッカー200円と、自転車借りて500円を比べ、自転車借りて500円を選んだ私。

ところが、ところが、

借りに行った自転車1日500円の店にはすでに自転車はなかった。あるのは子供用の小さな自転車2台だけ。

巷ではチャーリーと呼ばれ、チャリンコ暴走族と云われる私が、そんな小さなタイヤのチャリンコに満足出来る筈はない。自転車にはちょっとうるさいよ。お姉さんは…と、別の店に向かう。

幸い駅の側に、貸自転車屋は2件あった。
但し、もう1件は値段がわからない。ぼられたら困るな…と思いつつ、
「自転車貸してくださいっ」と元気におじさんに声を掛ける。

自転車はあった。
タイヤは私の乗っているチャーリー2号(1号は事故で亡くなった)より小さいが、まぁ、文句は言うまい。狭い萩の街をそんなに飛ばしても、市民の皆さんを脅かすだけだろう…

と、妥協する私。大人よね。


さて、値段である。

2時間で300円くらいだったかな?私は1日中借りる事にした。

1日借りると1,000円だとおばさんは云った。さっきはおじさんだった。お金の取り扱いは、おばさんがやっているのである。

(う~ん、向こうは1日借りて500円なのに…倍なのか…)

でも、仕方ないか、自転車が無きゃぁね…と、考え込んでいると、おばさんが云った。

「宿は何処ですか?」

私が宿の名前を言うと
「じゃ、荷物は宿まで届けておきますよ、自転車でホテルに戻って、明日の朝返してくれればいいですから…」

こいつはラッキー。

1日中と言っても5時に店が閉まるからそんなに回れないな…と、思っていたのに、まさしくその日1日中乗り回せる訳だし、直接宿に行けて、荷物は届けて貰える。それで1,000円なら、まぁ、いいか…と、お金を払おうとしたら、「おつとめしておきますから…800円でいいですよ」と、私が何も言っていないのに、向こうからそう申し出てきたのだ。

私は「ん?」と思った。

そういえば、宿の名前を言った時、二度も宿の名前を聞かれ、何か不思議な眼差しで見つめられたような気がする。

(こ…これは、よっぽど酷いホテルなのだろうか?)

考えてみると、ビジネスホテルとはいえ1泊4,000円で、しかもゴールデンウイーク前々日に予約を入れて取れるような宿である。心配はしていたが、このおばさんの、この態度…。

(大丈夫かなぁ…)

不安になりもしたが、寝られりゃいいや、宿なんて、それよりおまけしてくれたことを喜ぼう!とお金を払って荷物を預け、身軽になって自転車にまたがり、ご飯を食べに行ったのだった…。

昔から深く考えない性分なのです。


食事をしながら地図を広げ、色々計画を立てる。

修学旅行で来た記憶も手伝って、コースの選択は楽だった。

実際、走り回った、走り回った。
萩にある10近くの橋の内、渡っていないのは2〜3本だけ。

松本橋を渡って松陰神社。萩橋渡って戻って、明倫館碑(学校の中だったのでチラッと覗いただけ)有備館、修学旅行の時印象深かった郷土博物館、萩城下町を駆け回り、王江橋を渡って大照院、常磐橋を渡って指月山。万歳橋を渡って熊谷神社の前を走り抜け雁島橋を渡って明神池まで…。

後に、帰りの電車で一緒になった、萩出身の現在青梅に住むオジサンにこの事を話したら、感動(と、いうより呆れてたな…)されてしまった程である。

この日、ホテルに着いたのは夜8時近くであった。

こんなに遅くなった理由に、明神池がある。

明神池…、ああ…思い出しても口惜しい…。そして、恐ろしい明神池。

明神池に行ってから、私の旅の運気は変わった。

そもそも、明神池に行こうとは考えてもいなかったのだ。

指月山を出た時間が5時近く…他の建物は、大抵5時に閉まる。
見るところは無くなるし、でも、ホテルに戻るには勿体無い時間だし…
(せっかく自転車1日乗り回せるんだから…)
と、地図を見て、目に留まったのが明神池であった。

(池を見るなら、何時でも大丈夫だろう。入場料取る所じゃないみたいだし…)と、軽く考えて行ってしまったのだった。

行ってみてから後悔した。

遠いのである。

地図を見た時、遠いかな…まぁ、遠くても30分くらいだろう…
と思ったのに…
のに…

1時間近くかかってしまった…。

(げ〜、ど…どうしよう。帰れなくなる)

青くなりながらも、ここまで来たのに帰るのはもっと悔しい。と、貧乏根性がここでも出る私。

海岸沿いの道をず〜と、ず~とず〜っと走り、日頃鶴見の町を駆け回り、区民の皆様を脅かしている私の足が疲れ始めた頃、やっと辿り着いたのだった。

初夏の長い日も、暮れ始めた頃である。


ポチャン…。

池の脇にある駐車場に自転車を止め、トイレに行こうとした私の耳に、魚の跳ねる音が聞こえた。

明神池は静かだった。
もう、人は誰もいない。

土産物屋も片付けの準備をしているし、辺りは刻一刻と暗くなってゆく。時折魚の跳ねる水音が響き渡る程度だった。

(ふ〜ん、これが明神池ね…)

ちょっとしたプール程度の大きさで、ぐるりと周りを低い柵で囲んでいる。

水の中を覗くと、いるわいるわ、魚がいっぱい。

明神池の周りを歩いてみる。対岸に鳥居があって、その向こうに神社の社があった。

が、私は何故かその鳥居の中に入っていかなかった。
鳥居の横をすり抜けて細い山道に出た。

山道の上の方に看板があって、
「風穴ー自然のクーラー」
という文字の方に足が行った。

細い道だった。
木々の枝が、頭上近くに覆いかぶさっている。
風が出てきて枝を揺さぶり、耳元でザワザワと鳴った。
おまけに、風穴とある看板に近づけば近づくほど、ゴー…という、地の底から響く呻き声のような音まで聞こえてくる。

(……こ…怖い)

この時、私は心の底から恐ろしくなった。

でも、せっかくここまで来たのに…
時間かかったのに…
見られないなんて悔しい…

という貧乏根性が一生懸命、風穴に近づく努力をさせた。


が…足が動かないのである。

神がいるとは、こういう場所なのかもしれない。
そういう雰囲気のする場所ではあった。
何かがいるような、そんな感じは確かにした。
しかし足が動かなくなるなんて、
意地っ張りな私が、怖さに負けるなんて…。

私は負けた…。

踵を返して、早々に逃げ帰ったのだ。


この汚点は、私を萩に向かわせる新たな原動力となった。


絶対もう一度やってきて、今度は昼間に勝負してやる!
待ってろ明神池めっ!

心に誓う自分であった。


その日。あの場所で私は何か拾ってきてしまったかもしれない…

そのせいかどうか、あれほど良い天気に恵まれていたのに、翌日からガラリと変わって雨に祟られるようになった。

その雨は、私が自宅に戻るまでずっとついてきて、
自宅に着いても止まなかった。


と、いう訳で。
この後、雨の中の旅は続いた訳である。

翌日は秋芳洞、秋吉台、小月、そのまた翌日は出雲、
帰りは夜行電車で帰路に着き…
中々ハードな旅で、しかもハプニングがたくさんで(たくさん過ぎて)
ちょっと、今回は書ききれないな…。

まぁ、気が向いたら、続きを書こうかな…て、考えてますけど。
(気まぐれB型だからどうかな~?)
その時はまた、宜しくお願いいたします。

因みに費用。占めて約7万円くらいの額です。
(5万円は無理でした。予定外の出費にも泣かされたもんで)

掲載誌「MIMIME」裏表紙

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