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猫が隣で寝ているうちは



猫が隣で寝ているうちは、私は生きていられるだろう。


この世界は、うまくいかないことの繰り返しだ。
どんなに愛した人でも、ある日突然いなくなったりするし、
どんなに大切にした人にも、棘のような言葉を吐く。


ままならないことの繰り返しだ。


この涙を止めることも、私には出来るのに。
全部忘れて、笑うことだって出来るのに。

大事にしていたものがこの手からこぼれ落ちる時、
ほんの少しだけ安渡する自分がいる。
これから先起こりうる悲しみも同時に手放すからだ。


言葉にして残すことが憚れるようなことが、
私の心の中にはたくさんある。
言わなくたっていいことだ。
後生大事にこの胸に留めて生きていけばいい。
なのにどうして、弱い私はそれをわざわざ言葉にして、
文章にして、受け止めようとする。
弱いから、だろうか。



自分の汚いところを、みっともないところを、
わざわざ曝け出して、自分はこんな人間なんだと晒して、
他人が想像する「良い私」なんかじゃないと、
そんなもの見せかけだけのただのハリボテでしかないことを、
どうかわかって、どうかわかってほしい。


過大評価して期待するのをやめて、
だって私はこんなに情けなくてどうしようもない人間だ。


定期的に訪れるネガティブ思考の私は、
とても短絡的で救いようがない。
いや、救われないことをいい事に、
好き勝手私は私自身を傷つけている。


思考が地の底まで落ちた時、
私の頭に猫の鳴き声が聞こえる。



猫が隣で寝ているうちは、私は全てを忘れる。
ああだこうだと駆け回る思考が、ゆっくり減速を始める。
猫の寝息が聞こえる。
無意識に握りしめていた手が汗ばんでいる。
前髪が乱れている。
まるで大泣きしたように目が乾燥している。
これ以上涙は出ないだろう。

猫が寝返りを打つ。
暖かいお腹に顔を埋めると鬱陶しそうに
私の顔を前の手で押し出す。
「ごめんね。」と言いながらもっと深くまで顔を埋めると、
一呼吸ため息が頭の上で聞こえて、
また静かに寝息が聞こえてくる。
「ありがとう。」と心の中で呟いて、
私は体を起こした。


猫が私の隣で寝ているうちは、生きていけるだろう。
この繰り返しの中で、生きていけるだろう。


最後まで読んでくれてありがとうございます。
またいつか。

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