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【映画】「バジーノイズ」

 近所の劇場で5/31まで公開している映画を、駆け込みで観てきた。朝8時からの回なんてはじめてで、朝道ゆく人の忙しなさをよそに、優雅な気持ちで映画館に足を運ぶ。

きっかけ

 私がこの映画を知ったのは、Instagramの広告だった。ドラマ「silent」と同じ監督ということで、映像の雰囲気が私好みな予感がして、観に行きたいと思った。

 思っていたのに、気づけば5月になっていて、調べたらもうすぐ終演と書かれていて、慌てて予約した。1日1回の上映になっていたから朝しかなくて、思わぬハードスケジュールになってしまった。笑

表に出さない心について

 私がこの映画を観て1番に感じたのは、自分の想いを昇華することの難しさだった。
 清澄は、音楽に対しては芯を持っているが「自分がどうしたいか」を自分で形にするのが苦手に見えたし、潮は自分の気持ちが何なのか分からずに奮闘していた。陸は他の登場人物を導く存在に見えるが、いつでも諦めの気持ちととなりにいるようだったし、航太郎は自らの立場、現実と理想の乖離にもがいていた。

 私自身が誰かに重なるわけではないけれど、かといって彼らを私より青い存在として見ることもできない。内側の心を表に出してしまえば楽なのに、と考えてみては、そう簡単じゃないよなと共感する。その繰り返しだった。
 映画を観ているときは、観ている私がどこにいるのかを一緒に考えている。この作品でいえば、ときどきは会話や悩みを共にし、ときどきは上から見ている気持ちがしたから、多分第2.5者くらいだなあと結論づけた。

作品のつくりかた

 映画の中で、清澄は音楽のインスピレーションを自然の音から受けている。その世界を潮が思いきりやぶって外に連れ出して、清澄は戸惑いつつ新たな表現と出会っていく。様々な人と関わっていって、音を聴いて、心が音楽に乗っていって、育っていったように見える。

 私が写真と関わるなかで、作品について考えるときはもっぱら夜中の薄暗い部屋にいるし、歌詞のない音楽を聴いている。こう聞くとゆるやかな時間にも思えるが、大抵は期限に追われ、鉛筆を紙にはしらせ、辞書と色見本を繰りかなり苦しい時間を過ごしている。
 だからこそ、彼の「本当に好きなことをしている感じ」は羨ましかったし、他の人との関わりも含め、すべて豊かな時間であることがよく伝わってきた。

好きなものを、仕事に

 清澄の趣味だったものはやがて仕事になった。境界線をするりと超えて、清澄は没頭していく。その境界線の曖昧さが、(周囲からみた)やりがい搾取を生む。「好きなら/できるなら、いいよね」そんな声がする。彼はその声に気づいていただろうか。
 好きなことを存分にできることと、それ以外のすべてから隔離されること、それらを天秤にかけて "選ぶ" こと。彼一人の力でできたとは到底思えなかった。他の3人がまた彼を外へ連れ出していったのだ。

 この場面、なぜか他人事とは思えず心が騒いだ。自分自身がする仕事がどこまで対価に見合っていて、どこから気持ちで成り立っているのか。大学生になってアルバイトをしたり、組織を引っ張る立場になったりしてよく考えるようになって、それでもずっと正解がわからないままだから。
 たぶんこれからもわからないけれど、芸術やスキルをもとにして生きていくならば、常に頭の片隅に置くべき視点だと思った。

さいごに

 全体を通じて、眩しい世界だった。まっすぐで、それぞれの想いは混沌としていても、最後にはひとつになっていて。これはフィクションならではであって理想である部分が大きいけれど、こんな世界をつくりだしたいと心から思った。

 わたしの場合、気づけば信頼している、ということは多くない。出会ってからしばらくすると「その人」はわたしの中でできあがっているし、嫌でも毎日会うような環境でなければそれが変わることもほとんどない。映画の中で描かれていないできごとや変化を鑑みても、この映画のように関係を構築できた経験は皆無だった。
 
 それゆえ、鑑賞後の気持ちは複雑なものがあって。感動や共感とともに、羨望がいた。「いい話」として受け取るだけでは終われない、相変わらずのないものねだり、考え方のくせ。

 おそらく、普段は箪笥の奥にしまっている心を刺されたのだろう。その痛みは、この映画と同じ経験はしていないのに、過去の心として受け入れてしまうわたしの「自分の人生、これでいいのか?」という自問を誘う。
 
 そう考えてしまうことは必ずしも明るいことではないけれど、きっと私にとっては大切なタイミングなのだろうと思う。普段なかなか立ち止まれないわたしが、地面を踏みしめて歩くことができるようにするための。
 きっかけはいつもふとやってくる。この映画も思いがけずその機会を与えてくれたのだ、と思うことにして、ここまでつらつら書いた葛藤?もそこそこに、今日という日が終わってゆく。
 
 いつか、「自分の人生、これでいいのだ!」と思える日を夢見て。

moca

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