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【エンニオ・モリコーネ追悼】私が大好きなプログラムについて語ります。(フィギュアスケート)

映画音楽界の巨匠、エンニオ・モリコーネが死去したことを今日未明に知りました。大変ショックです。

私はモリコーネの音楽が大好きです。彼の曲を歌ったヘイリー(ニュージーランド出身の女性歌手)のアルバムも持っているし、映画「ミッション」のオリジナルサウンドトラックも持っています。中国系アメリカ人のチェリスト、ヨーヨー・マが彼の曲を演奏したアルバムも持っています。

モリコーネの音楽にどれほど癒されたことか。特に映画「ミッション」の曲は最高です。その中でも、おそらくいちばん有名なのは「ガブリエルのオーボエ」ですね。映画のストーリーなど知らなくても、心を掴まれる美しいメロディーです。

今日はモリコーネの追悼として、モリコーネの作った曲が使用されたフィギュアスケートのプログラムについて、書きたいと思います。お気に入りが3つあるので、箇条書きにしますね。


1. 安藤美姫さんのショートプログラム(2010-2011年)

日本を代表するフィギュアスケーターの1人、安藤美姫さんが無類の強さを誇った2010-2011年シーズン。その時のショートプログラムに映画「ミッション」の曲が使われました(シーズンの途中から「ミッション」の曲を使ったプログラムに変更したのです)。
音源はおそらく、冒頭に少し言及した中国系アメリカ人のチェリスト、ヨーヨー・マが演奏したバージョンです。

安藤さん対して、強くてセクシーなイメージをお持ちの方も多いかもしれません。しかし、このプログラムを見るとそのようなイメージが良い意味で覆されます。

非常に穏やかで、ぬくもりのある芳しい演技です。涙を誘う美しい曲の雰囲気と安藤さんのスケートが完全に調和し、切なくも甘美で、幸福感のある素晴らしいプログラムになっています。

チェロの落ち着いた、とろみのある音色が、安藤さんの切れ目のないスケートとうまく溶け合っていて、心がじんわりとほぐされていくような感じがします。バイオリンよりも低いチェロの音を使うことで、より成熟した雰囲気を出すことに成功している気がします。

このプログラムにおいて、安藤さんは軽やかで清涼感のある天使というよりも、甘美で優しい女神という感じです。しかし、その女神の中に少しだけ、少女の要素が混ざっています。とても天真爛漫な少女。安藤さんが演技中に垣間見せる笑顔は、まさにそんな感じです。

女神と少女という相反する要素が演技の中で解放されて混じり合い、何とも言えない幸福感を見る者に与えてくれます。女神と少女、これはどちらも安藤さん自身が持ち合わせている要素なのだと思います。

このプログラムからは、安藤さんの偽りのない人間的な優しさ、温かさ、包容力を感じることができます。

まだ見たことのない方がいらっしゃったら、ぜひご覧ください。私は数え切れないほど、この演技を見ています。何回見ても飽きません。フィギュアスケートの歴史に残る素晴らしいプログラムだと思います。


2. 三原舞依選手のフリープログラム(2017-2018、2018-2019年)

2017年の四大陸選手権で優勝し、その後もトップスケーターの1人として活躍している三原舞依選手。難病と戦っていることでも知られています。そんな彼女は、2シーズンにわたって映画「ミッション」の曲をフリープログラムに使用しました。

音源は、オリジナルサウンドトラックと、ヘイリーが歌う「Gabriel’s Oboe(Whispers In A Dream)」です。ヘイリーが歌っているのは「ガブリエルのオーボエ」にヘイリー自身が歌詞をつけたものです。

三原選手は、もともと天使のような清純で柔らかな雰囲気を持っている選手です。そのため、曲の神聖で透き通ったイメージを、無理なく完全に表現しています。このプログラムは、三原選手からフィギュアスケートの神様への捧げ物のような気さえしてきます。

三原選手はこのプログラムにおいて、まるで天使のようですが、演技自体からは「大地のぬくもり」のようなものが感じられます。
天使から大地のぬくもりを感じるなんて矛盾しているようですが、それが正直な感想です。とても澄んでいて神々しいけれど、血の通った温かさを感じることができます。それが、三原選手の凄いところだと思います。

三原選手のプログラムでは、安藤さんのバージョンとは少し違って、コーラスとパーカッションが一部使用されています。私はそのアレンジが大好きです。おそらくオリジナルサウンドトラックの「Vita Nostra」という曲を使っていると思います。加えて、三原選手のバージョンには効果音として雷鳴が追加されています。

これによって、荘厳さや勢いがもたらされます。静かに軽やかに美しく、ひたむきに地上で舞っていた天使を神様が見つけ出し、その天使を一気に天上の世界へと引き上げていくような心地よい風や勢いを感じます。
コーラスとパーカッション、そして雷鳴は、すべての苦難に負けず舞いつづける天使を祝福しているように聞こえます。雷鳴は、神様の声のような気もします。これまでの苦しみが、強く優しい風によって押し流され、目の前に光が差し込んでくるような幸福感や解放感を感じられるアレンジです。

個人的に、このプログラムは三原選手の「当たり」プログラムだと思います。彼女がもともと持っている雰囲気も天使のような感じだし、彼女のジャンプの着氷は非常に柔らかいのです。「天使が舞っている」と言うにふさわしい着氷です。

プログラムを見る前は、最初に述べた安藤さんの円熟した演技と比較すると、やや幼さが目立ってしまうかなと思っていました。しかし、そんな心配は的外れでした。

三原選手は、このプログラムで自分の個性をいかんなく発揮しています。緩急のあるスケート、苦しみも悲しみも内包した、優しくて幸せそうな表情。本当に素晴らしい演技で、私は見るたびに涙が出そうになります。それくらい、胸に迫るものがあるのです。

ちなみに、彼女が着ている衣装(2018-2019年シーズン版)は、映画「ミッション」のオリジナルサウンドトラックのジャケット写真を参考にしたのかなと思っています。オリジナルサウンドトラックのジャケット写真には、滝(イグアスの滝)が描かれています。この滝の色合いが、三原選手の着ている衣装の色とそっくりなのです。

とにかく、本当に最高のプログラムです!まだ見たことのない方がいらっしゃったら、是非ご覧ください。個人的におすすめなのは、2019年の四大陸選手権です。



3. カロリーナ・コストナー選手のショートプログラム(2005-2006年)

コストナー選手は、イタリア代表のスケーターです。母国開催だった2006年のトリノオリンピックシーズンのショートプログラムに映画「ミッション」の曲を使用しました。安藤美姫さん、三原舞依選手のバージョンと比べると、比較的明るい印象を受けるアレンジです。しかし、曲が持つ切なさや美しさ、優しさはきちんと表現されています。

私が特に好きなのは、プログラム中盤及び終盤のピアノアレンジの部分です。繊細で切ないメロディーに合わせてスピンをする彼女は、さながらオルゴール人形のようです。ピアノアレンジはとても新鮮です。

コストナー選手はすごくスピードがあるスケーターなので、勢いのある開放的なアレンジがよく似合います。軽やかを通り越して、それはもう疾走感と呼べるレベルだと思います。「目の前で繰り広げられる、天使の高速の舞を見逃してはいけない!」という気持ちになります。

コストナー選手が着ている衣装ですが、曲のイメージにとても合っていると思います。白と水色で、空とか天国とか、そういうものをイメージさせる衣装です。


モリコーネが作った曲を使用したプログラムで、私のお気に入りは以上の3つです。

モリコーネの音楽は、もはや「神の音楽」と呼んでいいほどの美しさを持っていると、私は思います。モリコーネがいなかったら、数々の美しい音楽はこの世に生まれることもなく、永遠に神様だけのものだったでしょう。彼の類稀なる才能によって、私達は神様の音楽を地上にいながら、生きながらにして味わうことができているのです。

モリコーネが亡くなってしまって、本当に残念です。数々の美しい音楽をありがとう。心からご冥福をお祈りいたします。