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アダムとイブと全身真っ黒コワイコワイ・スティーブ・ジョブズをやっつけろ

世界各国の物書きでまわすリレーエッセイ企画「日本にいないエッセイストクラブ」。10回目のテーマは「服」。ハッシュタグは #日本にいないエッセイストクラブ 、ぜひメンバー以外の方もお気軽にご参加を!

過去のラインナップは随時まとめてあるマガジンをご覧ください。

真っ黒やん

服には少々のトラウマを抱えている。

高1の頃、部活の新入部員歓迎会で駅前に集まったときのこと。学校以外ではじめて会う同級生と先輩、つまりは私服姿でははじめましてという状況。すると、私のコーディネートをまじまじと見た先輩はこう言った。

「真っ黒やん」

え?思ってもみなかった言葉にたじろいだ。だってそれが私のスタンダードだったから。でも、言われてみれば浮いている。みんな服に色が入ってる!まるで自分だけ日活の映画から現実世界に飛び出してきたように、黒い。申し訳程度にTシャツの襟元にライン状に入った唯一の色がやはり白なので、どっちにしろ日活の域は出ていない。べつに日活でたとえなくたっていい。

ここで書きはじめ早々に、ひとつの嘘が混ざったことを告白する。「先輩が言った」と書いたが、よほどショックだったのだろうか、このあたりの記憶は実は曖昧で、「真っ黒やん」は、色付き服を着ている知り合いたちを目の当たりにして自分で自分に突きつけた心の声だったような気もする。時々劇場に全裸で放り出される夢を見るが、このときの恥ずかしさを引きずっているのだろうか。それから20年あまりが経った今、たまに派手めな服を買うのだが、今の服選びと高1の忸怩たる悲しみはつながっていたかもしれない。

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これらで全身コーディネートすることはないが、言うなれば全身真っ黒コワイコワイ症候群を患っている。そう言いながらも後に再び日活の住人になるのだが、だから日活でたとえなくてもいいのだが、それはまたあとで書く。

服の選択肢のないベトナム

ただ、色付き服とは、布の面積あってのものだ。

だから、2011年10月にホーチミンへ渡ってからというもの、服を選ぶという機会がほぼゼロになった。なんたってカンカン照りかゲリラ豪雨しかないこの街は、半袖半パンとレインコートさえあればいいのである。そんな中でも選ぶ楽しみがなくなる訳ではないのだけど、そもそもバラエティに欠ける。

Tシャツなんて、観光市場にいけばいくらでもあるけど、たいがいベトナムがどうたらと書いてあったり、iPhoneの意匠に寄せてiPho(Phoは麺料理のフォー)と書かれたパロディTシャツだったり、ニカッと笑う建国の父ことホー・チ・ミンおじさんがプリントされている。ネタとしてたまに着るならいいけれど、これが私のチョイスです!アイデンティティの一要素です!と表明するようなものじゃない。大げさかもしれないけど、自分のセンスが良いとも思わないけど、できればそう言える服が着れるものなら着たかった。

しかしふしぎなもので、選択の余地がないと服なんて段々どうでもよくなってくる。黒とか、黒じゃないとか、生きる上ですごくどうでもいい。それより今日どんなネタを考えてどんな記事を書く方がよっぽど重要だった。冬はきっちり寒いハノイを、「色付き服が着れてうらやましいなぁ」と思ったものだけど、ついには自分のベトナム生活はほぼほぼホーチミンで完結した。

人間、ナリじゃないよぉ、ハートだよぉ!と、自分でも一体誰の真似をしているのか分からないけど、今思えば、ホーチミンという街での選択肢のなさが、自分が長く患っていた全身真っ黒コワイコワイ症候群を寛解してくれたと思う。だから黒い服を着る訳じゃないけど、要するに気にしなくなった。さらに、正直にいえば、外国人という立ち位置だったからこそ、たとえ衣服がヘンであっても、「文化が違うからね」で見逃してもらえると思っていたのだ。別にファッションポリスなんてベトナムにも日本にもいないけども。

しかし、2019年冬に自分は帰国して、再び発症しつつある。いや、してる。した。今いる場所は本土から見れば常夏的な沖永良部島(奄美の離島)だが、短いながらも冬は来るし、ホーチミンよりやはり服に気遣う人も多い。

それでも来た当初は、服なんてどうでもよくね?そもそもええ歳こいたおっさんになったし考えなくてよくね?状態で、「服に悩む時間をクリエイトに捧ぐのだ」なんつって、ミニマリストぶって全身黒にまとめてみたが、それがよくなかった。私のコーディネートをまじまじと見た友人はこう言った。

「スティーブ・ジョブズに憧れてるの?」

切り捨て御免!!と叫びそうになった。叫んだところ私の腰に刀はないし、先祖はお侍さんでなく船乗りと農家なんだけど、とりあえずその場で遺憾の意を表明した。ごちゃごちゃ言ったけど、ショックだった。もしジョブズが天から聞いてたら勝手にショックされたことにショックだろう。俺はただ、ファッションがどうでもよくなっただけなのに、スティーブ・ジョブズ・フォロワー枠に入ってしまうのか。iPhoneもiPadもMacも持ってないのに入ってしまうのか。そうして全身真っ黒コワイコワイ症候群を再発し、正確にはその亜種のジョブズフォロワーコワイコワイ症候群を発症し、すでに参考までにあげた色付き服などを買うようになった。ところでさっきから色付き服って、骨付き肉みたいな語呂があるよね。ルフィ!肉~~~~~~~~!!

アダムとイブと…

ファッションは呪いだ。一度その考えに取り憑かれると、春夏秋冬どうしようと考えてしまう。日本は四季があって素晴らしいというが、四季があるから衣服に金は落ちるのだ。温帯気候はファッション業界の策略かッ!アダムとイブにとって知恵(恥じらい)を与えたリンゴが、自分にとっては高1の新歓とジョブズだったということだ。ジョブズ!黒~~~~~~~~~!!

どうでもいいが、ちょうど昨日聞いた話で、昨年まで島に上裸で生活していたスキンヘッドのおじさんがいたらしい。風貌は「完全にダルシム」で、しばしば浜で全裸になって太極拳をしていたんだとか。別の人から聞いた話で、「ある日浜に行ったら全裸の人がヨガをしていた」というものがあったが、きっと同一人物なんだろう。ヨガしてたらダルシム本人じゃないそれ?

後日談的な話。二度の全身真っ黒コワイコワイ症候群を発症して再び服に気を遣うようになりはじめた自分は、最近ちょろちょろとファッションを褒められるようになれた。とくに派手めのシャツを着ていると、似合ってますねとよく言われる。最近は千鳥の大悟をイメージ検索して勉強してる。呪いの中にも一縷の幸福はある。まるでパンドラの箱だ。全身真っ黒の高1の私に「20年くらい経ったらたまに褒められるようになるで」と言ってあげたい。

ダルシムの話は蛇足でした。

前回走者、ベルリン酒場探検隊さん(久保田さん)の記事はこちら。

最近まで私も酒場は「アルコール」ではなく「場」だと思っていたんですが、周りがめちゃ酔っ払ってノリについていけなくなる自分に、アルコールって相乗りのアトラクションみたいなものだなーと思いました。体質的に飲めないけど飲み会に参加する人ってそのへん乗りこなす技持ってそう。もしかしてコミュニケーション強者と言えるのかもしれない。そして、酒場で古着が売られていたということに驚き。ドイツのクナイペ(酒場)を「酒を提供する場」だけと考えていると、まだまだ裏切ってくれるかもしれない…。

次回走者は武部の姉さんです。
武部さんの姉さんじゃなくて武部姉さんです。

だったら最初からそう書けよ。

「タケベはすぐ寝る」とありますが、実は「タケルもすぐ寝る」んですよ。タケルは私の名前です。ただし、兄と妹とお酒を飲むとき限定です。東京にいた頃に月1で私の家で飲んでいて、すぐに眠るもんだから呆れた兄妹が、私が中高のときに聴いていたヴィジュアル系の楽曲をかけると毎回決まって目を覚ましてそれを見て爆笑する、というくだりを何度も繰り返したことを思い出しました。今もみんな元気です。それにしても武部家のベランダから見える景色は、うちの実家と似ている。都会っ子は夜景がお好き。

ぜんぶうまい棒につぎこみます