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温泉バイトで王様だったTさんは、いま何をしているのだろう?

大学生の頃、長期休みのたびに温泉旅館でバイトをしていた。

親からろくに仕送りをもらっていなかった僕はバイト三昧の大学生活を送っており、夏休みや春休みはより効率的に稼ごうとリゾートバイトをしていた。

温泉旅館は住み込みで働くことができ、まかないも出る。休みなく働くのはシンドイが、まとまったお金が効率的に稼げるので結構おいしいバイトだった。(女子大生との出会いもあった)

ある旅館でバイトをしてみたら、結構よかったので翌年もバイトにいくことにした。相手側からも気に入られたようで、毎年声をかけてもらえるようになった。

そんなある年、Tさんがバイトとして入ってきた。僕より年上である。

大学を卒業したばかりのようで、リゾートバイトがしたくてエントリーしたらしい。就職はどうしたのか?と思ったが、まあそんな人は毎年やってくる。

僕は2ヶ月ほどバイトして8月末頃に帰ったが、Tさんはまだ残るとのことだった。このまま冬まで住み込みで働くかもしれないと言っていた。頑張ってくださいと言って、僕は居住地へ戻った。

そして次の年、僕がその旅館にバイトに行くと、なんとTさんがまだいたのだ。どうやら彼はそのまま旅館に残って働いていたらしい。

Tさんはすっかり旅館の経営者家族と仲良くなり、溶け込んでいた。そして、予約業務なども行うようになっており、すっかり番頭といった雰囲気を醸し出すまでにまでになっていた。

そんなTさんと2ヶ月弱、また一緒に生活してバイトをした。Tさんはまるで自分の旅館のごとく仕事をする。

とは言え、バイトはバイトでしかない。

そのままこの旅館に就職する可能性もあるが、それはないだろう。家族経営の旅館であり、シーズン以外はバイトを必要としない規模でしかない。従業員を雇う余裕はない。

Tさんはシーズン以外も常駐していたことになるが、それは経営者家族がラクをしたかったからだろう。バイトくらいの人件費で従業員クラスの働きをしてくれるのだから、悪い話ではなかったのだ。

Tさんは業務に熟達しているし、どうもそれに自信というか誇りを持っているようにも見えた。経営者家族からも友人か家族のように扱われており、居心地は抜群に良さそうに見える。

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