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「ねえ、会社にアイデンティティを捧げた俺のこと、どう思う?」

お風呂に入っていると、チャイムが鳴った。誰か来たようだ。

「はーい」と妻が対応し、何やら玄関で会話している。妻の声のトーンは高い。ということは、親類でもなければ友人でもなく、あまり関係性のない人が来ているとわかる。

「いったい誰だろう…?」

気にはなったが、妻がお風呂場まで来て僕に相談する気配はない。ということは、大したことではないのだ。安心してもうしばらく湯船に浸かる。

お風呂から上がって、妻に来客のことを聞いてみる。

「町内で話したことないおばさんが来てさ、自分の家にツバメが巣をかけてて、もう少しで雛が飛び立ちそうなんだって。でもそこにモズが攻撃して来て困ってて、追っかけて行ったらウチの裏の◯◯さんの家にモズの巣があるみたいで」

「へえ、それで?」

「で、ウチの裏庭からモズを時々監視させて欲しいから、入ってもいいかって」

「で、なんて答えたの?」

「どうぞって」

「それでいいね」

まとめると、自分の家のツバメをモズから守るために、僕の家の敷地に入らせて欲しいとの依頼だ。

はっきり言って、ちょっとおかしい。

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