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拝啓 旅立つ君へ

君が遠くへ旅立ってから、気のせいか家が少し寒くなった気がする。春が進んでいるというのにね。

昔と違って音声通話が無料になっているから、LINEなんかで話したりはしやすくなってるけど、ちゃんと会って話さないと寂しさは埋まらないものだね。

お父さんは、やっぱり寂しいよ。

君のことを思い出すとき、ずっと昔のことをいつも思い出すんだ。

君が妹をいじめた時のことだ。確か君は8歳くらいで、妹は5歳くらいだったと思う。

君と妹は体格が全然違うから、お父さんから見れば弱い者いじめにしか見えなかった。

力の強いほうが、より優しくしなければならない。お父さんにとってこれは譲れない信条だから、君を強く叱ったんだ。

そうしたら、君はこう言った。

「お父さんはいつも〇〇(次女)ばっかり!! お父さんなんて大っ嫌い!!」

君は意図的に、子供にしてはとても上手に、お父さんに向かってしっかりと言葉をぶつけたんだ。

君はしっかりと照準をお父さんに合わせて、言葉の一つ一つをぶれることなく叩きつけるために丁寧に罵声を繰り出した。

君から発せられた、必ず届かせてやるとの意思を持った言葉は、確かにお父さんに届いた。

おそらく、生まれて初めて君がお父さんに全力で意思表示をした瞬間だったと思う。

おかげで、と言うか、君にとっては狙い通りに、お父さんは傷ついたよ。

自分でもびっくりするくらい深く、深く傷ついたんだ。その傷は、いまでも鮮明に残っていて、君と過ごした時間を思い出すとすぐに出てきてしまう。

君はきっと覚えていないと思う。もちろんそれでいい。親に何を言ったかなんて覚えておく必要はない。そんなことに脳の要領を使うべきじゃない。君の脳は常に未来への期待と周りの他者への愛情で埋められるべきだ。

もっといろいろ楽しいことがあったのに、思い出すのは君からのあの罵声だ。とてもおかしな話だと思う。

でも、あの時ほど君がお父さんに全力で対峙したことはなかったんだ。

対峙するほどのことが起こらなかった、と言うことだと思う。それはそれで素晴らしい成果だ。

でも、遠くへ旅立った君と、お父さんは全力で対峙してみたいと願うんだ。

君は、おそらくはもう帰ってこない。

これはもう会えないという意味ではなくて、寝食を共にすることはないという意味だ。

当たり前のように一緒に朝食を食べ、シャワーの順番で喧嘩し、トイレが長いと怒ったり、日々の他愛のないことを報告しあうことがなくなる。

だから、君と全力で対峙することはもうないだろう。

お父さんと君が真剣に対峙したのは、10年前のあの日が最初で最後になった。

それが善きことなのか不幸なことなのかはわからない。それはすべて後にならなければわからない。

でも、お父さんは君に伝えたいことがまだある。

それは結構大切で、しっかりと伝えなければならないことだ。

でも、もう対峙することはない。

だから、このnoteに記することにする。

もちろん、君がこのnoteを読むかはわからない。おそらく読むことはないだろう。

でも、お父さんはこのnoteの向こう側の君と対峙する。

君に届くと信じて書く。

まずは、お父さんの駄目さからにしようか。

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お父さんの大学生活はかなり偏っていたと思う。なんせ大学にはほとんど友達がいなかったから。つまりはボッチだ。

友達と言えばバイト仲間の連中ばかりだった。なんせお金が無くてバイト漬けだったので仕方なかったのかもしれない。バイトしないと飯も食えず国民年金も納められなかったから。

でも、大学の友達がほとんどいないという事実は、これまでの人生で感じたことのない孤独を感じさせた。

とはいえ友達が欲しいわけでもない。とても矛盾している。

お父さんはその時、どうやら自分の内面に堕ちていきたがってたみたいなんだ。

内面に堕ちる。これはとてもよくない事なんだ。

若い内は可能性がたくさんある。それは今は実感できないかもしれないけど、間違いなくそうなんだ。

君がこれからやったほうが良いことは、可能性の扉を開けて、扉の向こうを少し覗いてみる。それをたくさんやることなんだ。その中から「これは」と感じた扉の向こうに飛び込めばいい。

でも、自分という扉のこっち側でうずくまっていては扉の向こうを見ることができない。いつまでも止まったままだ。

扉を開けるというのはとびっきり能動的な行為で、多くのカロリーが必要だ。加えて心理的・思考的な軽さも必要となる。

つまりは、扉を開けやすい、覗きやすい時期と言うのが人生にはある。そういうことなんだ。

そんな大切な時期に、自分の内面に堕ちている時間は本来はない。ないはずなんだ。

でも、お父さんは堕ちてた。中二病をこじらせるとこうなる。

お父さんは、とても後悔している。

でも、奇跡的に20歳の時にお母さんと出逢い、人生の喜びと美しさを知った。お父さんを奈落から引き上げてくれたのはお母さんなんだ。わりとまともな人生を送ってこれたのは、お母さんのおかげだ。

でも、これは偶然だ。運がよかったんだよ。

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今の自分をもっと拡張したいという欲求。若い時にもっとも大切なものだ。

それは無謀さを伴うことになる。コスパだの効率だの小賢しいことを考えてはいけない。自分が感じるままに歩まなければならない。

君が使ってるiPhoneを生み出したスティーブ・ジョブズは、かつてこんな言葉を残している。

And most important, have the courage to follow your heart and intuition. They somehow already know what you truly want to become. Everything else is secondary.
(そして何より大事なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことです。あなた方の心や直感は、自分が本当は何をしたいのかもう知っているはず。ほかのことは二の次で構わないのです。)

スティーブ・ジョブズ 2005年スタンフォード大学卒業式

君が気になった扉へまっすぐに進んでほしい。結果なんてどうだっていいんだ。どうせやらないとわからないのだから。

でも一人で扉を開けるのはちょっとヘビーかもしれない。それに扉は、大抵の場合かってにはやってこない。誰かが持ってくることが大半だ。

だからこそ、友達が必要なんだ。友達こそが、可能性の扉そのものなんだ。

そして、君自身も、友達にとって可能性の扉とならなくてはならない。

友達同士で新たな扉を持ち寄り、それぞれが扉を開けて覗き込む。そこで新たな発見をし、友達の輪に持ち帰る。

輪を持たない人物との差がどれだけ開くのか、想像するまでもないね。

直感のまま動け。そして直感をくれる友を増やせ。そして友の直感を刺激しろ。

お父さんは君を学生寮に入れた。それはより多くの人間関係を抱え込ませるためだ。また、一人暮らしだともしコロナで大学が閉鎖になった場合、友達ができないまま長期間経過するリスクを回避する目的もあった。

多くの人と関係していくのはシンドイ。お父さんも得意じゃない。

でもシンドさ以上の喜びがある。人間は基本的に素晴らしい。

その中で、君にとって一生のパートナーが見つかるかもしれない。

そうなったら、いいね。少し寂しいけど。

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次はお金についてだ。

知っての通り、お父さんは金融機関に勤めているから、お金には少し詳しい。

というか、お金と人間について詳しいと言ったほうが良いかもしれない。

最初に言っておくけど、お金からは逃げられないんだ。

貧乏だとお金に困るってのは理解できると思う。お金がないとお金に困る。当たり前の話だ。

でも、お金持ちもお金に困ってるんだ。これは想像し辛いかもしれない。下手すると貧乏な人より困っていたりする。

ここら辺を理解してもらうには、それこそ君がこれから学ぶ経済・経営の知識が必要だ。その時になったら、また話そうね。

今回はもっと大雑把な話にしよう。

まず、お金って言うの不思議なもので、誠実な人に集まってくる習性がある。

逆に言えば、不誠実な人のところには集まらないということだ。

誠実さにはいろいろあるけど、お父さんは端的に「誠意」だと思っている。

他者に対して誠意をもって接する人は人に好かれる。これはわかるよね。

人間は誠意をもって接してもらうと、その人を好きになる。

好きになるは言い過ぎだけど、少なくとも関係性を維持してもいいなと思ってもらえるんだ。

関係性を維持してもらえる。これはとてもとても重要なことなんだよ。

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お金はどこで発生するだろう?

君はお父さんやお母さんからお小遣いをもらってたよね。陰でジジババからもらってたのも知ってる。

何でお小遣いがもらえるのか?

それは君が僕らの子供であるからだ。そんなことは当たり前だね。

親子の関係性があるから、お金がもらえた。

つまり、お金は関係性から発生しているんだ。

逆に言えば、関係性のない所にお金、正確に言えばお金の移動は発生しない。

という前提の中で、より多くのお金を得るにはどうしたらいいか?

答えは簡単だね。関係性を多くすればいい。

では関係性を増やすにはどうしたらいいのか?

答えはさっき出てたね。

常に誠意をもって相手と接することだ。でないと関係性は増えていかない。

他者を尊重し、誠意をもって応対する。それにより関係性を構築し維持していく。これを継続していくにはどうしたらいいのか?

大前提として、君が「まともな人物」にならないといけない。危なっかしい人物と関係性を継続しようとする人はいないんだ。

「まともな人物」とはどういう人かと言うと、安定している人だ。もっと解像度を上げれば計算できる人ということ。

相手が君と会う時に、君は相手の予想通りの状態である。計算ができる相手と言うのは簡単に言えばこういうことだ。

つまりは相手に余計な緊張感を与えないということ。

これはほんとうに大切なことなんだ。

一見、自分の感情を殺すようにも見えるかもしれない。確かに自分を押し殺す局面はあるだろうし少なくないと思う。

でも、それが誠意なんだ。

自分を押し殺してでも相手を不安にさせない。その意思こそが誠意そのものであり、誠実な行動なんだ。

お金は誠意から生まれる。お父さんはそう言ったね。

だからこそ、誠意は得難いものなんだ。お金を生むものは簡単には手に入らない。

誠意のある誠実な人間であり続けることは、大変な労苦を要する。これが現実だ。

ぶっちゃけた話、金持ちが貧乏な人よりとても少ないという事実が、誠実な人間であることの困難さを表している。

だからこそ、今から意識して生きてほしい。

誠意をもって他者と接する。それを念仏のように唱えてほしい。そうすれば君が社会に出た時に、それほど心的に苦労せずとも誠意ある応対ができるかもしれない。

誠意ある人にお金は集まる。なぜならお金は関係性から生まれるから。

これをどうか忘れないで。

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可能性と友達、誠意とお金。

二つのことを伝えたけど、共通するものはもうわかったと思う。

自分以外の存在の重要さだ。

君は大学を卒業しても、それこそ生を全うするまで他者と共存していくはずだ。他者からは逃げられない。

であれば、他者の存在について深く考えなければならない。それだけは避けられないはずなんだ。

でも、つい自分の事ばかり考えてしまう。当然かもしれない。でもそれはやっぱり間違いなんだ。

他者の心を想像しよう。そしてできる限り寄り添うようにしよう。

その行為を繰り返して習慣化できれば、きっと君にとって望ましい人生が広がるはずだ。

他者を憎めば誠意は無くなり関係性は切れていく。そうすれば君が望むものは徐々に遠のいていくだろう。そして最後は独りになる。大学生の時のお父さんのように。

人間は結局は、人間によって生かされている。

他者を軽んじていいわけがないんだ。

君と関係性をもった人を愛してほしい。そうすれば君も愛される。

人生って、とても難しいけど、大切な部分はとてもシンプルなんだ。



君が、多くの愛を与えますように。

君の人生が、多くの愛に包まれますように。


敬具

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