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針ほどの月明かり 【0.2】

一個百円のケーキ。鳥の胸肉で作った唐揚げ。一緒に揚げたポテト。キャベツのサラダ。誕生日の夕食が並べられたテーブルの周りを小さな真白が歌いながら歩く。滝沢幸は子供達といられたら十分幸せだった。子供達の将来のために少しでもお金を貯めるべく生活費を切り詰めても、どんなに仕事が忙しくても、楽しそうに笑う二人を見ているだけで頑張れた。百円で三個入ったクラッカーをテーブルに並べていると、ドンドンドンとドアを叩く音が聞こえた。そういえばチャイム壊れてたっけ、と思い出しドアに近づく。覗き窓の向こうにはニヤニヤした男が立っていた。幸はドアを開けずに聞いた。

「どなたですか。」

「このアパート宛の荷物を配達してるんですけど部屋番号が無くて確認してまして。こちらに男性の方は住んでますか?」

「男性の方?」

「個人情報なんで僕から名前は言えないんですけど…たぶん成人男性向けの商品なんで…」

「他の部屋だと思います。」

「ご主人とか彼氏とか誰かが内緒で取り寄せてたりしませんかねぇ。」

「そんな人いませんから。他の部屋に聞いて下さい。」

ずっとニヤニヤしている男を幸は薄気味悪く感じた。男は何も言わず、頭を下げるでも無く覗き窓から見えなくなり、嫌な足音が遠のいた。荷物を配達したいはずの男は隣の部屋のチャイムを鳴らさなかった。個人情報と言っても中身には触れず苗字を言えばいいのに。何だか変だ、と思った幸の後ろでクラッカーが鳴った。

「真白、まだ早いよ。ハッピーバースデー歌ってから鳴らすんだぞ。」

真白は早くケーキが食べたいんだと気づいて幸は笑顔で部屋に戻っていった。

え!?サポートですか?いただけたなら家を建てたいです。