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音声燻製 1 / 毎週ショートショートnote

放課後、体育館の手前の廊下の角。オレンジ色の陽が彼の頬を赤く染めている。
きっと私の頬も赤いんだろうな。
「…好きなんだけど。」
心臓が本当にどきどきした。
「俺と付き合ってくれない?」
コクリと頷いた。どきどきしすぎて声が出ない。
少しの沈黙の後、彼は教室で報告を待つ仲間のところに戻って行った。
私はぼぅっとしたまま、後ろ手に持っていた箱を抱きしめる。今この瞬間のまま時間が止まればいいのに。

マナから「アイツ、もうすぐ告白する気らしいよ!」と聞いていたから知っていた。入学式で一目惚れした彼と両思いになれる日が来るなんて。
告白された記念に彼の声を聞かせた音声燻製器。どんな燻製が出来てるかな。
そっと蓋を開けると、少しだけ煙が鼻を触る。何もなかった箱の中にコロンと赤いハート型のチョコレートが出来ていた。
「私も、ずっと前から好き。」
いつかチョコレートじゃなくて彼に言わなくちゃ。
その前にマナに報告に行こう。

#音声燻製 #毎週ショートショートnote

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