【お題】丸襟

マフラーの下からのぞく丸襟は
春風はこぶ時間もはこぶ   

 子どもの頃、お盆やお彼岸に、親戚の家に行った。その中で、洋品店をしている親戚がいた。観光地に近い商店街にあるせいか、お土産のようなものも売っていた。
 育ち盛りの私たちきょうだい、いとこ達は、そこで好きな服を選んでよいことになっていた。

 久しぶりに会った大人たちが奥にあがって長い時間話している間、お店の中を隅から隅まで見た。この日はお店で子どもだけでじっくり見ていても、怒られない。お客さんが来ると、奥にいる大人に知らせる。

 当時すでにちょっと時間が経過している”レトロ”な服が、透明な袋に入ったまま棚の下の方から出て来たりした。淡い色のカーディガンに、ざっくり編んだ花柄の丸襟がついているのを見つけて、買ってもらった。長い間お気に入りだった。

 お店には観光客だけでなく、地元の幅広い年代のお客さんが来ていた。
 高学年になる頃には、ちょっと好みが違うかなと思うようになった。だんだん掘り出し物の存在は忘れてしまっていた。夏休みに寄っても、服を買ってもらうことはなくなった。

 大きな道路が出来て、人の流れも変わり、もうお店はなくなってしまった。
 ”しまむら”などで、ちょっと昔風の襟のついた服を見ると、一巡、二巡して、当時のあの洋品店の服は、なかなかよかったなと思う。今ならお店の中身をぜんぶ見直して、春のコーディネートを揃えたい。

2023.3.3 夕焼け短歌ダンス同好会


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