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海外には自国の薬を持っていけ

私は幼い頃、本当に少しの間だったがアメリカに在住していた。
アメリカ、ロサンゼルス。
小学校4年生。
私は本当に興味本位でアメリカに単身で乗り込んだのだ。
今もあるかは分からないが、当時はジュニアパイロットというシステムがあり、子ども一人でも容易く飛行機に乗ることが出来た。
当然アメリカに降り立って1人というわけではない。
アメリカ側には父の知り合いである日本人のおばあ様が1人で住んでいた。
その方の家に数日間お世話になるという事だ。
学校はその地域の小学校への一時的転入を許可されたのだが、未だにどうやってその許可が下りたのかは分からない。
とりあえず私は1人でロサンゼルスへ渡った。アメリカに着いた時初めて食べた食べ物は空港近くの蕎麦だった。

さて、私がこのタイトルにしたのも様々な理由があってこそだが、まず第一に自国の薬というのは主に風邪薬だ。
実はもうすぐ帰国する1週間前だというのに私はアメリカで大風邪をひいてしまった。
それもそのはず、私は時差に大変弱くアメリカと日本では10時間以上もの時差がある。
日本では規則正しい生き方をしても、アメリカで目が覚めるときは夜の1時。
慣れない家での生活を強いられていたこともあり、緊張もあったのだろう。
当時買っていた大型の漫画本も擦り切れるほど読んでしまった。
借りた部屋はもともと子ども部屋のようで玩具は有れど、自分が好きそうな玩具はイーゼルと紙くらいだった。
様々な憶測は出来るが、海外で風邪をひいてしまった時の絶望感はすさまじかった。
子どもながらに「ここの風邪はいいのだろうか」とも思ったほどだ。
だが、問題は別にあった。風邪を引くのはまあ仕方ないということにしておこう。

私はおばあさんから1つの缶を手渡された。
そこには「7UP」と書かれている。
思わずおばあさんを見れば「それは薬だから」と言って飲ませてきたのだ。
風邪薬などは一切飲まず、ことあるごとにセブンアップを飲まされ続けられた。
日本でいう「薬飲んだ?」という感覚で「セブンアップ飲んだ?」と聞いて来るから驚きだ。
そのせいで私は昨今迄セブンアップ=薬という思考が抜けず、一般的なドリンクにあるにも関わらず手を取るのを一瞬躊躇した。
ちなみにわからない方に言うとすれば、セブンアップはいわゆるスプライトと同等の海外ドリンクだ。
日本での販売もあったが数年前に無くなってしまった。
とにもかくにも、私は病人だというのに散々セブンアップを飲まされ続けた。
マクドナルドに連れていかれる事もあったが、その際も飲み物は有無を言わさずセブンアップを注がれる。
家の飲み物は全てセブンアップだ。
当然その間に風邪薬を飲むなんてこともしなかったし、存在も知らなかった。
後日解ったことだが、アメリカの風邪薬は全体的におかしいのだ。
日本は「良薬口に苦し」というのだがアメリカの風邪薬は主にグミだったりジュースだったりと様々だ。
甘いものが多い。しかも本当に効いているのか微妙だ。
ひとしきりグアムで薬を見てきたが、子どもはともかく大人向けのでもそういうものがあったので、苦いものが苦手なのだろう。

私は大風邪を引いていると言ったが、それは私の今後のトラウマにも関わっている。
私が帰ることを知ったクラスメイトたちがお別れ会を開いてくれたのだ。
せっかくのお別れ会なんだから出なさい、とおばあさんにケツを叩かれ行ったのだが、確かあの時は熱が38度くらいあったと思う。
当然だが、クラスパーティーという事で学校のクラス部屋でパーティーが行われる。
主役の私の周りにはケーキやらピザやらがてんこ盛りに盛られ、アメリカ独特に赤黒いやら青いやらの謎のパウチ型ジュースが置かれた。
当然消化に良いものではなく、風邪でヘロヘロになっていた私は当時の味を全く思い出せない。
余り覚えていないのだがトトロなんかを見た記憶がある。
最後に私がみんなにありがとうをいうシーンで事件が起きた。
気持ち悪さが最高潮に達する。
「皆さんありがとうございま」まで言えたところで、私の胃は全てを逆流させたのだ。
書いているだけでも思い出して嫌になる思い出だが、最後の最後で吐しゃしてしまったのだ。
結局、あの時のクラスメイトたちにちゃんとしたさよならも言えず、ただゲロを吐いただけの不思議な転校生扱いだったのだろう。
大変申し訳ない事をしたし、悲しくもなった。部屋で泣いた。

母に電話で連絡をすると「鞄のチャックが付いている場所に薬と絆創膏がある」とのこと。
慌てて開けるとそこには葛根湯という薬が入っていた。
日本でも有名な漢方を使った薬だが、私はあの時本当に嬉しくなった。
アメリカでは蛇口をひねると生水が出る為、おばあさんをあれこれ説得して水を手に入れ私は葛根湯を口に含みその日は眠った。
するとどうだろう、翌日になると先日より断然良い具合に体が軽くなった。
今まで無かった食欲も戻ってきたようでおばあさんは安心していた。
当然飲み物はセブンアップだった。
私がアメリカから旅立つときに思ったのは「薬って偉大だな」という感覚だった。

それからというものの、私は海外旅行をするときに必ず1つは自国の薬を持って行く。
従兄弟がインドに渡った時、胃痛を訴え正露丸を飲んでも治らなかったがインドの薬を飲んだところ治ったという事もあるので、もしかしたら内臓的な物はその国の物が良いのかもしれないが、基本的にまずは自国の物を持っていけそうなら試すべきだろう。
税関などで引き留められそうな気もするので、持ち出す時は必ず事前にその国での持ち込み可能禁止を確認してから持ち込むのが良い。

少なくとも風邪薬は自国の物が一番だ。私はそう強く思う。
あとセブンアップは薬じゃない。


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