究極の引きこもり
異常気象のせいで、外出するものはいなくなった。生まれたときから誰にも会わず、家の中で暮らして来たのだ。
「外に出ると、死んでしまうわよ」
母に言われたことを忠実に守っている。家の中にいても雨が降り、擬似太陽の光が降り注ぎ、季節の作物が育つ。
すべてはAIとロボットがやってくれるから、俺は何もしていない。友人も仕事も、全ての生活がオンラインで完結している。
そんなある日、友人Aが家に行くと言ってきた。それっきり、チャットは返ってこない。非常に心配で、喉元を何も通らない。
でも、空気にも栄養素が含まれるようになって、俺は生かされている。
ボーッとしていると、突然、扉が開いた。
「誰だ?」
起き上がる気力もなく、植物の上で寝転びながら、俺はポツリとつぶやいた。
「俺だよ、俺。分かんない?」
見上げると、令和時代のロボットが流暢に喋っていた。
「もしかして、Aか?」
おそるおそる、聞いてみた。家族以外と現実で話したのは、これが初めてだった。
「そうだよ」
「どうやって来たんだ? 俺たちは、外に出ると大気汚染と異常気象で、死んでしまうだろう。ロボットを使っても無駄なはずだ」
俺は昔のことを思い出して、恐怖心に駆られていた。
「どうしてそう思うんだ?」
ロボットのまま、Aは飄々と答えた。
「昔、父さんが外に出て行った。そのあと母さんも探しに行ったけれど、一向に帰って来ない」
真剣に打ち明けたのに、Aはバカにしたように大笑いし始めた。
「なにがおかしいんだ? 俺たち人間は、もう地球に適応できなくなったんだよ」
一息ついてから、Aは続けて話した。
「ごめんごめん。お前、自分のことを人間だと思っているのか?」
何をバカなことを言っているんだ。
俺は呆れ返って来た。
こいつと話しても埒が明かない。
「俺たちは人間じゃなくて、猫なんだよ。猫は死に際を誰にも見せないって知らないのか?」
そう言って、Aは喋らなくなった。
なんなんだ。猫だなんて、訳の分からないことを言いやがって。
Aのロボットを分解して、中を開けてみても、そこには何もないじゃないか。
俺は意を決して外に出てみた。
すると、家の前には2匹の三毛猫と人間が倒れていた。外は信じられないくらい明るく、大海原が広がっていた。俺以外、誰もいなかった。
どうにも現実感がない。まるでオンラインのようなスクリーンように感じる。
俺が初めて見たと思った自然は、すべて虚構だった。きれいな青空も、草原も、スクリーンで出来ている。
水たまりに映った自分を見たら、たしかに中年の男がいた。