見出し画像

ブロッコリーの侵略|短編小説|#同じテーマで小説を書こう

昔、昔、あるところに、おじいさんとおばあさんがおりました。おじいさんとおばあさんは、ブロッコリーを育てていました。

おばあさんが畑の端に、他より二倍も大きいブロッコリーを見つけました。

「おじいさん、これ見てくださいな」

すぐさま、微笑ましく思ったのか、手招きをしておじいさんに教えます。まるで二人とも孫を囲むかのように、しばらく座り込んでいました。

いっそう愛情を込めて育てるようになりました。どんどん成長します。おばあさんの身長を超え、おじいさんとおばあさんが住んでいる家をも超え、ついには、畑全体と同じぐらいの大きさで近くのお山をとうに越していました。

「おや、まあ」

大層おどろき、おじいさんはぎっくり腰になってしまいました。

それでもおばあさんはおじいさんの分までブロッコリーを育てつづけます。
雨の日もそばで見守り、
風の日も倒れそうになれば支えて、
晴れの日も愛情を込めて水やりをしました。
愛情を受け取るように、すくすくと育ち続けます。お山を越えてからは見えなくなり、ついには雲の上まで伸びました。

ある日、人々がおじいさんとおばあさんが育てた大きなブロッコリーを観に来るようになりました。今日は北海道から、昨日は四国から。毎日、たくさんの人がやってきます。二人とも対応に追われました。疲弊したので原因を突止めることにしました。すると、近所に住んでいる噂好きの山田さんが、回覧板に写真を貼り付けていたようです。それがいつの間にか日本中に広まって、観に来る人が出てきたというわけでした。

中には熱狂的なファンがいて、全身緑色の服を着てやってきます。そして、決まって言うことが「いくらでも出すから、こっそり買わせてくれないか」ということでした。自分たちの家に大きなブロッコリーがあれば人が集まるし、同じぐらいの注目を浴びたいという欲にまみれた人たちでした。

おじいさんとおばあさんは「そんなことのためにブロッコリーを育てたわけじゃない」と強く拒否し、何としてでもブロッコリーを死守しようとしました。

ブロッコリー星人と名乗る、全身緑色の男たちが尋ねてきました。ボスのようなサングラスをかけた人が「いままで育ててくれたのには感謝するが、これを売り出すことに決まった。金はいくらでも出す。どれぐらい欲しいか言ってみろ」そう言ってきたのです。

もちろん、おじいさんとおばあさんは「お金に変えられるものじゃない」と、断固として要求を拒否しつづけました。ところが、急にやってきて、無理に工事を始めたのです。よく分からない大きな土を掘る機械を持ってきて、根こそぎ持っていきやがりました。

いつしか競りに賭けられていました。おじいさんとおばあさんは乗り込んで、自分たちで取り返そうと考えました。しかし、止めようがないぐらい、どんどん値段は跳ね上がります。ついに持ってきた百万円を超えてしまいました。おばあさんが泣き崩れてしまい、その場に倒れ込んでしまいました。

落札したのは、30代のおなごでした。蒼白い肌で全身真緑色の服を着ている様子に、おじいさんとおばあさんは言葉に表せない奇妙さに鳥肌が立ちました。



おなごも毎日大切に育てました。
雨の日もそばで見守り、
風の日も倒れそうになれば支えて、
晴れの日も愛情を込めて水やりをしました。
しかし、それに反してなよなよと縮んでいきます。

怒り狂ったおなごは、おじいさんとおばあさんを連れてきて、育てるように命じます。不思議なことに、するとまた元気に育ちはじめました。

地球の半分を占めた頃、ブロッコリーのつぼみが開き始めました。少しずつ花が咲き始めます。満開になったら、地球と同じ大きさになりました。

宇宙から見ると、ひときわ輝く黄色い星に見えます。それを見つけたブロッコリー星人が集まってきました。

そして、地球人の住む場所はなくなってしまいました。

これは「同じテーマで小説を書こう」という企画で書いたものです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?