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愛して欲しいと言えたなら     (メル友・・・その14)

メル友

メル友・・・その14

あ~あ、まだ、1時間もあるわ。ちょっと、早く来すぎちゃったみたい。
そう思いながらコーヒーのお替りを注文した時に、
カランカランと音がなって喫茶店のドアが開いた。
裕子が、ドアの方に視線を移すと、裕子に気がついたみたいで雪子が微笑んだ。

「あら?どうしたの、こんな早く?」
「そう言う裕子だって、もう来てるじゃない?」
「うん、ちょっとね、考え事があってね」
「考え事?何か悩みでもあるの?」
「あら?それじゃ、まるで、私って悩み事がない人みたいじゃない?」
「ふふっ・・・」
「ねぇ~、雪子は、いつものでいいの?」
「ええ・・・」
裕子が、雪子の代わりにミルクティを注文すると・・・
「あれ?裕子は注文しないの?」
「もう注文したわよ、2杯目のコーヒーをね」
「2杯目って、いつから来てたの?」
「えっ・・・?」
「ねぇ~、悩み事って、な~に?」

悩み事は、な~に?って訊かれて、実はね~って、言えるわけないでしょ?
でも、やっぱり、相変わらずマイペースな子よね~、雪子ってさ。
のんびり屋さんっていうか、優しさのオーラをまとったような雰囲気は今も昔も変わらないのね。

今も、昔も、か・・・。どうして、今さら、そんなことを思っちゃうのかしら。
きっと、あの人のせいね。
あの人との再会がなかったら、今も昔もなんて考えなかったかもしれないし。

「別に大したことじゃないのよ。それより、旦那とはうまくいってるの?」
「な~に?突然。あの人と結婚してから一度もケンカしたことがないの、裕子、知ってるじゃない?」
「そういえば、そうだったわね。本当に優しい旦那よね、雪子の旦那ってさ」
「ねぇ~、裕子?」
「なに?何か変なこと言った?」
「そうじゃなくて、今日は、私のことを雪子って呼ぶのね?」
「えっ?そうお?・・・そうだったかしら?」
「そうよ、いつもはじゅんきんって呼んでるでしょ?ねぇ、裕子、何かあったの?」

じゅんきんって・・・ちょっと!ちょっと!ちょっと!まって!まって!まって!・・・。
あ~ん、もう!だめだわ。私、やっぱり、動揺してるんだわ・・・。

「別になんでもないわよ。ちょっと、考え事をしてただけよ」
「ふ~ん・・・そうなの?」

んも~、やめんかい!その、猫なで目線で私を見るのは・・・。
どんなに訊かれたって、簡単においそれって言えるわけないんだから。

「そういえば、雪子のところの愛奈ちゃん、就職が決まったんでしょ?」「あっ、また雪子って?」
「いいのよ、気にしない、気にしない。それより就職の方はどうなの?」「うん。本当は、高校卒業の後は大学にって思ったんだけど、本人が働きたいって」
「そうなんだ、でも、よかったじゃない」
「なんか、ファッション関係のお仕事が好きらしくて、デパートの服売り場で働きたいって」
「それで高校を卒業してから2年間ファッション専門店でバイトしていたのね。でも、それなら専門学校とかの方がよかったんじゃないの?」
「私もそう言ったんだけど、お洋服を作るよりも販売の方が好きなんだって」
「へ~、そうなの。でも、二人とも、ちゃんと就職が出来てるんだからよかったわよ」
「う~ん、そうなのかな?」
「そうよ。今の時代、普通に就職するのだって難しいのよ」
「それは、そうなんだけど・・・」
「な~に?何か、ご不満でもあるの?」
「不満ってわけじゃないんだけど、二人ともしっかり者だから、私のすることがだんだんなくなってくるし」
「仕方ないわよ。だって、雪子は、昔からのんびり屋さんだもんね」
「そうかな~?」
「私さ、前々から不思議に思ってるんだけど、雪子は、夜のお勤めの時もそんな感じなの?」
「夜のお勤め?私、働いてないわよ?」
「そっちのお勤めじゃないわよ・・・。あ~も~ホントにのんびり屋さんね」
「えっ?そっちじゃないとすると、どっちのお勤め?」
「あ~ほんとにも~。どっちのお勤めじゃなくて、旦那との夜のお勤めの方よ」
「あっ・・・そっち。してないわよ」
「はい?」
「だから、旦那さんとはそんなことはしてないわよ」
「してないって・・・?なに?旦那とケンカでもしたの?」
「違うわよ。だって、もう、そんなに若くないし・・・」
「若くないって、いったい、いつ頃からしてないの?」
「そうね~、もう10年以上かしら?翔太さんが生まれてからだから・・・」
「それじゃ、10年じゃなくて19年でしょ?ってか、19年も旦那とはご無沙汰状態?」
「だって、別に好きじゃないし。それに、したいとも思わないし」
「な~に?それじゃ、旦那とは嫌々ながらしてたってわけ?」
「とりあえず、子供は欲しいな~って」
「子供は欲しいな~って・・・それだけで?」
「う~ん・・・二人欲しかったからかな?」
「子供が欲しかったから嫌々でも我慢してたっていうわけ?」
「元々、そういうことをするのって好きじゃないし」
「ふ~ん、あれほど毎日のようにやってたのに?」
「えっ?何の事?」

あっ・・・まずった・・・。
いや・・・オカマが・・・違った、女装家が・・・いや、女性化だった・・・。
もう~。どうして、こんな時に、あの人と雪子とのあれを思い出すかな~?
ってか、その、お相手が、今は・・・お・か・ま・・・あれ?
何気なく視界に入ってくる雪子の顔に裕子は、思わず少し噴き出すように笑ってしまった。

「な~に?何が、おかしいの?」

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