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運命のデュエット(『運命』 改題)短いバージョン

■登場人物

 

◆男

 二〇歳代。知的。ちょっと暗い性格。

 

 ◆女

 一八~二十代前半。少々気の強い女性。

 

 ◆語り

 

 

(オープニング)

 

■1

 

 

女 : お目覚めですか?

 

 男 :…… 夢を見ていた。

 

 女 : 夢ですか?

 

 男 : …… そうだ、狂った子どもと言われていた頃から

 

見ていた夢だ

 

 女 : …………

 

 男 :その夢の中でも、わしは変わり者だった。

  人と違うという事が、許されておらず、酷く狭い世界で生きていた。

 

 閉じ込められたように生きる……わしにとっては、その書物を読みながら、そこに登場する人たちを想像する。

 

  それが何よりも慰めであった。

 

どのように、この人物たちが躍動したのか……そのような 常軌を逸脱した夢の話を、

 

父や  母に話しても相手にされることなど……まあない。

 

  夢の中だけでなく、現実でも居場所がない折に、お前に出会った。

 

  お前はわしの言う事を面白がった。

 

そなたの父上も、面白がってくれたのだ。

 

  両親を相次いで亡くした、そんな わしにそなたらは親切にしてくれた。

 

 

 

女 :  私(わたくし)も母も、この姿形なので、蛮族、そう罵られて育ちました。

 

その程度の事は、なんでもございません。

 

  それに、私も小さい頃から、夢を見ていたのです。

 

 

 

男 : ふむ、それは、初めて聞く……

 

女 :  ふふ、聞きたそうですね。いいでしょう。お話をして差し上げます。

 

夢の中で、私は小娘で、やはりカナモノ……金属の 精緻な……精密……細かなカラクリばかりを触っておりました。酷く燃えあがる粉や油、おのずから長い間、動き続けるカラクリ……

 

それらを、思い起こして、それを木で作ってみたり。幼い頃から、そんなことばかりしていました。

 

母にはよく叱られたものです。父は、まあ、あの性格ですから、やはり、面白がって、記録にも書いておりました。

 

…そんな時に、私は、あなた様に出会ったのです。

 

私と同じ。このお方はこの世界の枠に捉われない知識と考えを持っている。

 

  このお方と何かをしてみたい。そう思ってしまったのです。

 

男 : 村を襲った馬賊どもを仕留めた あの罠もその夢のカラクリが、もとか?

 

 ■2

 

(回想)

 

(SE)切り替えの音

 

 ◆裏の森から攻める隊(紐が外れて発動する仕掛け弓矢多数)

 

盗賊A: 裏の森から来る奴もいるたぁ、思ってねえだろうな!()

 

 

盗賊B: はっはっは、ちょろいっすね。正面の本隊が突っ込む前に片付けちまいましょうぜ…………ぁん? なんだ こりゃ?

 

(SE)紐が外れて仕掛けが発動する音 

 

盗賊A: んぁ……? ……あ゛っ!()

 

(弓の音)

 

盗賊A【2-3-5】伏せろ!!

 

盗賊A【2-4】:(つぶやき)こんなバケモンみてえな仕掛け弓矢を……(ねこつう)

 

盗賊たち:ぎゃ、うあ、が!

 

(SE)紐で発動する多数の仕掛け弓で射殺される盗賊たちの音と声。

 

 

◆正面の隊(騎馬で突撃。鋭い杭が斜めの角度で土の中から持ち上がり止まれない騎馬たちを串刺し)

 

盗賊D: (笑う) あんな薄い板切れ並べて 防げるとでも思っているのか!   行くぞっ!

 

盗賊たち: おう!(たくさん)

 

(SE)騎馬の走る音

 

(SE)縄が切れる音、縄が引っ張られて、騎馬隊を串刺しにする杭が持ち上がる仕掛けが発動する音

 

盗賊D: あああ、止まれ、止まれ! 串刺しになっちまう! あああああっ!

 

(SE)止まれないまま多数の騎馬が杭で貫かれる音

 

盗賊たち: ぐあ!うお!ぎゃ!!うあ!(たくさん)

 

 

◆脇の道から敗走する生き残り(草地・釘板で足止めされ、火攻めの計)

 

(がさがさ)

 

盗賊F: はあ、はあ、はあ! ほかは、全滅か? 糞ったれ! どうなってんだよ! あの村はよお!

 

盗賊G: うおあぉぉ!(板釘を踏み抜いて負傷)。ぐあああ、なんだ、こりゃ!

 

盗賊H: ああ畜生っ! 気をつけろ! 枯れ草の間に板釘がばら撒かれてるぞ!

 

盗賊I: なんだっ? 焦げ臭いぞっ?

 

盗賊J: 火だ! 火だ!(しかへるさん)

 

盗賊K: 逃げ道を探せ! うおおお、火が!(MASAKIさん)

 

盗賊L: 火がっ! 火がっ! あああ、助けてくれえ! うあああ!(しかへるさん)

 

盗賊M: ああああああ(泣きながら焼け死ぬ)(ねこつう)

 

(SE) 切り替えの音

 

(回想終わり)

 

■3

 

女 :はい…… しかし、穴に落ち、火に焼かれ、体を貫かれ、泣きながら死ぬ者を見るのは、さすがに辛うございました。

 

  いくら同胞を殺めた悪党共であったとしても……

 

それと……

 

  私(わたくし)はこの赤毛に肌なので、蛮族と罵られて育ちました。

 

馬賊がいなくなり平和が戻ると、人々は「人殺しの鬼女」と呼び、私に近寄らなくなりました。

 

私は、幼い頃、めずらしいというだけで売り飛ばされそうになっている所を父に助けられました。そして そのまま引き取りもしてくれました。母は母で、実の子でもなく自分たちに似ても似つかぬ私を 本当にかわいがってくれました。私が疎まれるだけならともかく、母がそのことで 嘆き 悲しむのを見ているのは、こんな私でも耐えがたき辛さがありました。

 

そんな時、あなたは優しく微笑んだのです。「人殺しというのなら、策を立てた わしも、同じ罪だ。お前をわかろうとしないものたちを相手にするな。お前のお陰で、この地域の人々の命が救われたのだ」と私を慰めてくださいました。

 

 

 

男 : (和む笑い声)…… 『あの男の嫁選びを真似てはならぬ』そう人々は言ったものだ。

 

しかし(ぃ)、あの出来事 以来我らを嘲ける(あざける)者もいなくなったが、近づくものも現れぬ…… 難しいものだ。

 

 

 

女 : あなた様は各地の『いくさ』の勝敗を、予言され、それがまた想像を超えた当たり方をしてしまう。

 

似た者夫婦という所でございましょうか(くすくす)。

 

 

 

男 : …… わしが 夢の中で読んでいた書物には、

 

様々な事が書かれていた。

 

  その内容が、現実と一致する事が多い。

 

  断片を繋ぎ合わせてみると、それは、歴史書のようじゃ。

 

 詳細な地図や地名、起こる戦いや変事の内容と日時……そして、それに関わる者たちの名前が載っていた。

 

  予想は それで当たりをつけているだけだ。

 

  もし、

 

前世というものがあるならば、

 

わしは、それを夢で見ているのだろう。

 

  …… この地域にも、近々、大軍が攻めてくる……

 

 

 

女 :  乱世ゆえ……

 

 父以外にも、あなた様の才覚を知り、出仕(しゅっし)を請う方も多くなりましたね…………

 

  この地域が馬賊(ばぞく)に狙われているとわかった時、

 

付近の地形を調べ、罠をかける場所、村の若者を埋伏(まいふく)させる場所、手はずを整え、馬賊を殲滅(せんめつ)した、あなた様の才覚には心底、驚きました。

 

  これは夢のお告げの力ではありますまい。

 

  そもそも、あなた様が夢に見た、その『歴史書』の中に、

 

あなた様のお名前もあったのではございませんか?

 

その行く末が芳しく(かんばしく)なく、腐っておられるのではありませんか?

 

 

 

男 :  ……………… 月英(げつえい)………

 

女 : あなた様が昼寝をしている間、また、あの御方が来られました。

 

  『起こして来ます』

 

というのに、

 

あなた様が『起きるまで、待っている』

 

とおっしゃって、

 

長い間、外でお待ちです。

 

 

 

尊い御方が、一介の農夫を三度も御自ら(おんみずから)訪ね教えを請うなど、あの御方は筋金入りですよ?

 

 

 

どうなさいますか? 孔明様……?

 

 

 

男 : (ため息) あの御方が 来られることもわかっていた……

 

運命は変えられるだろうか?

 

 

 

女 : あの御方に付かれるかどうかはともかく、

 

  『これは運命だ』と諦めたくなるような事にでも、 挑んでいくことは生きる上で価値あることではないでしょうか?

 

  お気持ちがあるのなら、

 

どこまでも、ついていきますよ。

 

  その方が面白そうですし(くすくす)。

 

 

 

男 :(漏れ笑い) お前には、敵わぬ。

 

わしは着替えねばならぬ。

 

もう少し、お待ちいただくよう、客人に伝えてくれ。

 

 

 

語り: 歴史書、三国志によると、古代中国、西暦一八一年に生まれた諸葛亮孔明という人がいた。知略に優れ、天才と呼ばれるのにふさわしい策士であった。弱小勢力であった劉備(りゅうび)という者に、三度請われて、配下に加わる。

孔明は劉備をよく助け、劉備は魏、呉、蜀という三大勢力の一角にまでになった。

しかし、そののち強敵に何度も阻まれ苦戦し、孔明は志を果たせぬまま、天に召される。

そのような孔明の妻、月英は、醜い容姿の女性だったという記述が残されている。このことから考えられるのは、異民族の血を引いたエキゾチックな容姿だったのではないかという一つの説である。

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