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植物に聞いてみた ~ アオキ

あけましておめでとうございます。
本年最初の投稿になります。
皆さまのお陰で朗読台本やボイスドラマを作ってこられました。
本年もよろしくお願いいたします。

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私が所属しているHEARシナリオ部で書いた作品です。
月に一度テーマを決めて、部員で作品を書き合います。
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※この作品はフィクションです。

武士:
はぁはぁ…
まったく、何故こんなことに……
与平が帰って来なければ、
わしはこの洞窟で野垂れ死にではないか……
 
アオキ:
……うぅむ
さきほどから聞いておれば
うじうじと泣き言ばかり…
ほとほとあきれ果てるというものだ
 
武士:
……!?
何奴! いったいどこにおる!
(刀を抜こうと構えるくらいの感じで)
 
アオキ:
……(笑う)
ぉお、落ち武者が威勢のいいことだ
 
我は人間ごときの目には見えぬ
ぬしらは、我を「物の怪」と呼んでおるらしいなぁ
 
武士:
ぬっ?
 
アオキ:
そう、殺気をたてなくてもよい
おぬしに、危害を加えるつもりなぞない
最後に誰かと会話とやらをしてみたかっただけじゃ
 
武士:
……?
 
アオキ:
……のう、落ち武者
おぬしは哀れじゃなぁ
 
武士:
黙れっ、物の怪…
味方の十倍の敵が攻めてきたのだ
わしは…わしはっ、
それでも勇敢に戦った!
 
アオキ:
なんと杜撰(ずさん)な作戦じゃ
十倍の敵と戦うなど、阿呆な大将がすること
下についたものどもは苦労するばかりじゃな……
 
武士:
杜撰なことなどない!
しかし
大雨で川が増水し、援軍が間に合わなかったのだ
わしの策に落ち度はなかった!
 
アオキ:
なんとっ
おぬしが、阿呆の大将であったか!
 
武士:
阿呆の大将ではない!
 
アオキ:
(笑う) では、捕まったら敵に言うがよい
「援軍が間に合わなかっただけで、
負けたわけではないのだ!」と。
最後に笑ってもらえるネタだぞ?
 
武士:
ネタとか言うなッ!
 
アオキ:
いくらでも吠えればよい
お前はただの哀れな落ち武者じゃ
今のままでは、な (笑う)
 
武士:
ぬううう!
…………二十年も、耐えておったのに。
……(トホホな感じで)初戦で負け、物の怪にまでからかわれるなぞ…
思うてもみなんだ
 
アオキ:
なんだ
また、落ち込んでおるのか
せわしない奴じゃのう
…そうじゃ
想う者くらい、おらんのか?
 
武士:
……おもうもの…マサコ……
 
アオキ:
いるではないか
して、それはお主の一方的な恋か?
 
武士:
無礼なことを言うでない!
城を埋め尽くすほどの女子(おなご)が
方々(ほうぼう)でわしの帰りを待ちわびておる
こんな洞窟で朽ち果ててなるものか!
 
アオキ:
ほぉ
そんなに、おぬしはもてるのか……
落ち武者を好むとは
悪趣味な女子(おなご)も多いのじゃのう……
 
武士:
うるさい! 黙れっ!
貴様、無礼にも程があるぞ!
 
アオキ:
無礼?(笑う)
無礼か…ならば、せいぜいきばってみせればよい
阿呆の大将?
 
武士:
先程から貴様は……
………ぃや、待て
そもそも、落ち武者とバカにしてくるためだけに
話しかけることなどあるか?
 
貴様……
何か魂胆があって、
わしを挑発しておるのか?
 
アオキ:
ほう
阿呆な落ち武者大将にしては、なかなか賢いではないか
 
武士:
これでも一軍の大将だからな
……そういえば貴様、妙なことを言っていたな
最後に誰かと話したかったと。
 
アオキ:
簡単なことよ。
お前と同じ理由じゃ。
 
武士:
わしと同じ理由だと?
 
アオキ:
生き残るためじゃ。
 
武士:
わからぬ……
物の怪なら、いくらでも長生きできるのではないのか?
 
アオキ:
いや、我はおぬしに切られたのだ。
おぬしは我の仇(かたき)だ。
 
武士:
なに?
 
アオキ:
正確には、与平とかいうおぬしの仲間が我を切った。
そして、切り取った我の体で、
この洞窟の入り口を隠したのじゃ。
葉っぱだけではなく枝も青いゆえ、
我はアオキと呼ばれておる。
我はアオキの精霊じゃ!
生命力強く萎れにくいゆえ、利用したのであろうが、
いくら我でも、切り取られてはなぁ
いずれ枯れてしまう
 
武士:
じゅ、樹木の精霊であったか!
……それは……悪いことを…した
しかし、それでも、なぜ……
 
アオキ:
……落ち武者になったおぬしに  もしも  まだ他を思う心があるのなら、
我の枝を切って清潔な砂に挿し(さし)水をやってはくれぬか。
そうしてくれれば我は苗木になり生き延びる
 
武士:
それだけで根付くのか……なんというしぶとさじゃ!
見習いたいものだ!
そうか! 物の怪。
貴様はそのために
わざと挑発して、わしの気を引いたな?
 
アオキ:
どうせ互いに瀬戸際ならば、仇であっても、
水を向けて賭けてみようとな
そう思ったのだ
 
武士:
なんと肝の座った駆け引き上手
気に入った!
貴様を配下に加えたいくらいだ!
 
アオキ:
なんという戯れ(たわむれ)を!
草木と話しておっては、阿呆がとうとう乱心したと言われるぞ?
それに、おぬしは間もなく、我の声が聞こえなくなる。
 
武士:
……?
 
アオキ:
我らと話ができるのは、特別な力のある者か、
あるいは、生と死の境界線にいるもののみ
しかし、おぬしはこれ以上振り返ることも、
死を思うことも、もうあるまい……
 
武士:
…………そうだな……
貴様のお陰で、覚悟がついた!
わしを信じてついてきてくれた者たち……
生きている者、散っていった者たちのために……
もうわしは、負けぬ!
アオキの精霊よ。
貴様の声が聞こえなくなっても……
この頼朝……ここを脱出するときに、
誓って配下の者に命じよう!
必ず貴様の枝を土に植えて根付かせるようにと。
そして、平家との戦いに、わしが勝利した暁には、
お主に敬意を払い生涯大事に育ててやる
もうわしは、絶対に負けぬ!
このいまいましい世の中を、
この源頼朝(みなもとのよりとも)が作り替えてくれる!
 
語り:
西暦一一八〇年。
のちに鎌倉幕府を開く源頼朝は
二十年もの沈黙を破り、伊豆で兵を挙げた。
しかし、運悪く大雨で増水した川に阻まれて
味方の軍勢は足止めされる。
そのため
頼朝は、十倍もの敵軍と戦うことになり
初戦は大敗。
その逃亡中、
頼朝が隠れていた洞窟の入り口を隠すために、
萎れにくいアオキの木が使われ、
それを持ってきた土地の者に
頼朝が青木という名字を与えたという伝説がある。


Spesial Thanks!  人外薙魔様

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