ヤマブキ
大人になるまで、一重のヤマブキばかりに出会っていたが、八重のヤマブキに出会った時は、ようやく出会えたと思った。
よく知られた逸話で、こんな話がある。
昔、太田道灌という武士が外出中雨に遭った。農家の娘に蓑を借りようとしたら、娘は八重の山吹の花を差し出し、
七重八重
花は咲けども山吹の
実のひとつだに
なきぞ悲しき
と歌を詠んだ。
わけがわからず、道灌は山吹を投げ捨てて帰ってきて、家臣にその話をした。
家臣は「恐れながら、その娘は、八重の山吹の実をつけない性質と蓑の持ち合わせが無いということをかけて、それを和歌で伝えていたのではないかと思われます」と言った。
それを聞いて道灌は、
「娘はさぞかし、わしのことを無学な愚か者と思ったことであろう」と自分の教養の無さを恥じて、勉学に励んだという。
子どもの頃に聞いて、「へえ」と思ったのを覚えている。同時に、実ができなくて、どうやって増えるんだろうか、とも思った。
八重ヤマブキは雄しべも花びらに変化し、雌しべも退化してしまっているので結実しない。
株分けや挿し木などで増やす。
植物にはそういう増やし方もあるのだということを、大人になってから知った。
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