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姪と地球

姪がいる。いま6歳。今春、小学生になった。弟夫婦にできたひとりっ子。ダンスと習字が好きらしい。不妊治療の末、諦めた途端授かった子で、44歳で父親になった弟は、こちらが照れて目をそらすほど我が娘を溺愛している。

100年後、長寿であれば、姪は106歳になる。彼女の目に映る世界は、どんな姿をしているだろう。


半世紀近く前、小学校で未来の地球を絵に描いたことを覚えている。クラス全員が小さな手に大きな絵筆を持ち、空飛ぶ車や料理するロボットを画用紙いっぱいにえがいた。エアコンがまだ珍しかった時代である。母はガコンガコンと激しく振動する二層式の洗濯機を使っていた。

50年後の未来がこんなであるとは、まったく想像していなかった。未来は常に輝いており、地球は宇宙に誇るスーパースターに進化を遂げるものと信じて疑わなかった。家の各部屋にエアコンがつき、乾燥までしてくれる洗濯機を手に入れたが、思い描いていた未来はこれではない。便利と幸せがセットで訪れるはずだった。より快適なら、より笑顔でいられるはずだった。



先日弟が、1本の短い動画を私のスマホに送ってくれた。近所の夏祭りに出かけたらしい。浴衣を着た姪が、色とりどりの水風船が浮かぶビニールプールの前にしゃがんでいる。動画を再生しながら、私は目を見張った。姪の隣に小さな男の子がいる。3つぐらいか。風船釣りの前に金魚すくいをやっていたのか、薄紙がすっかり破れてしまったポイでプールの水をかき回している。その男の子を姪はじっと見守っていた。夢中になって身を乗り出そうとする男の子をやんわりと制し、元の位置に戻った子がポイで遊ぶ姿を、ただ眺めていた。

優しいお姉さん。まさに姪はその子の優しい姉だった。正しい遊び方を教えるでもなく、騒々しさを注意するわけでもなく。男の子にケガがないよう、ただそれだけを見ているというふうだった。自分の風船釣りはすっかりそっちのけで。

ひとりっ子の姪は、人との接し方をママ、パパ、ばあばから学んだ。保育園の先生や年長さんから教わった。それだけでよその子を、こんなに慈しむことができるのか。

いま6歳の姪が、一足飛びに106歳になるわけではない。そこには当然ながら、100年分の歳月がある。自分を、誰かを慈しむ眼差しが、世界中に100年かけて増えていけば。地球もまた自然と多くの住民から愛される星になるだろう。姪があの子を愛したように。

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