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エッセイ・創作小説

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エッセイと短い小説を集めてます。
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2019年12月の記事一覧

短編小説「紫の龍」

授業が終わり、職員室に戻ったあともまだしばらく、わたしは考え込んでいた。 (よけいな言葉だったかな。あの子を傷つけてしまったかしら……。) 同じ後悔が何度も頭にせり上がってくる。わたしのあのひとことで、あの子が絵を嫌いになったらどうしよう。もう二度と絵は描かない。そんなふうにもし思われたら、わたしは何と言ってあの子を慰めたらいいのだろう。 「片岡先生」 名前を呼ばれてはっと顔を上げた。 隣の席の沢原先生が、わたしの目を見てにこっと笑った。 「それ、『龍の使い』の絵で

「一宮さんのやりかた」

「#はじめてのBL」のお題に寄せていただいた文章を、記事にまとめてお届けするつもりでいます。 が、ただいま友人から猫のぬいぐるみ30個のオーダーが入っていて、それをクリスマスまでには発送しないといけないので、当分ぬいぐるみ職人となります。 まとめ記事はいずれあらためて。 お茶を濁すわけでもないですが、ちょっと前に書いた小説をここに載せます。 BLを読む人って受け入れ間口が広いからか、百合もけっこう好きですよね?私は好きです。 百合要素も入った、というかそれがメインな内容で

今夜は月が綺麗ですね

さっき相方から電話があり、酔った声で、 「26日、肉、覚えといて」 と言われた。 何のことやらわからないが、カレンダーの26日の「資源ゴミ」略して「資」と書いてあった横へ、赤い油性ペンで「肉」と書いておいた。 さて、みんなのnoteの続きを読もうとソファに戻るとまた電話。 酔った彼は少々しつこい。 嘆息を隠して電話に出たら、 「月、めっちゃ綺麗やで」と興奮している。 「見て。すごいから」 「うん、わかった」 しばし沈黙。 「見て、早く」 「今?」 「今。当たり前や」 「

この世は愛で満ちている

まずはお礼を。 虹の橋を渡ったミカサに、たくさんの言葉の花をいただきました。 本当にありがとうございます。 マリナ油森さんの募集企画、「第2回"#呑みながら書きました"」に参加するのを楽しみにしていたその日の朝に旅立ってしまい、とても酔えないと言いつつ弔い酒を呑みながら一気に書いた文章に、noteとTwitter、メールを通じてとても多くのコメントを寄せていただきました。 あの晩、お酒が入った状態でないと、ミカサの訃報をあんなふうに伝えることはできなかったと思います。 た

「モテる男」

「なんやねん、もう」 ぶるぶる震えながらシゲオが気弱な声を出した。素っ裸にされているくせに下半身は丸出しで、なぜか薄い胸を両腕で隠している。こういう、天然なのか狙っているのかわからないシゲオのしぐさが、俺をますます苛立たせた。 「どうなるかわかってるやろな」 「なによ、こわい」 「こわいとちゃう。女みたいな声出すな」 俺が持っていたスマホをシゲオに向かって振りかざすと、それだけでシゲオはびくっと肩をすくめた。 この界隈で最も売れているキャバクラ「パラディッソ」。その地