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【小説】連綿と続け No.16

航)街コン、行かんでくれ

2人は発ったまま向かい合い、互いを見つめている。

侑芽)でも私が出ないと春ちゃんが出てくれないので…

航)そんなん2人とも出にゃええ話ちゃ

侑芽)でも誰かが出ないといけないから…やっぱり私が出ます。それに…大丈夫だと思います。大丈夫な気がしてきました

航)なにが?何が大丈夫なが?

侑芽)それは…春ちゃんが言っていたように、飲んで食べて喋って、ちょっと我慢すれば終わるから…

侑芽には航が怒っているように見え
その理由もわからないままオドオドしている。

航)俺は大丈夫やない!心配や。どんな人が来るんかわからんし、どんなええ人でも酒が入ったらどうなるかわからんやろ?

侑芽)航さん、どうしてそんなに心配してくれるんですか?

航)それは…あれや…。お兄ちゃんなんやろ?侑芽にとって俺は。やさかい…心配いうか…

侑芽はそれを聞くとほっとし
緊張が解けたように笑った。
そしてふいと背中を向けた航に飛びつくようにして抱きついた。

航)は!?なにしとるんや!!

侑芽)フフフ!お兄ちゃん大好き!

そう言ってクスクス笑った。
抱きつかれて動揺している航は
侑芽を振り解くことも出来ないまま固まった。

航)お兄ちゃんて言うな!

2人がそんな話をしている頃、皆藤家では

春子)あれ?侑芽がいない!

春子は侑芽がいない事に気がつき
家の中をうろうろ探して歩いている。

歌子)あぁ、たぶん航が連れ出したんやないかなぁ

春子)は?やっぱりそう言うことですか!?あの2人は!

歌子)そうやったらええなぁて思うとったんやけど、どうやらうちの息子の片思いやったみたい。はぁ…残念やわぁ

正也)そいがそいが〜。お兄ちゃんやなぁ…ある意味ふられたようなもんやしなぁ?

それを聞いた春子は突然仁王立ちし
大きな目を見開いた。

春子)はい!私に良い案がありますよ!

歌子)え?どんなどんな?

正也)何?まだ航に敗者復活の可能性がある言うこと?

春子)あるある〜!アレはねぇ、可能性大ですよ!あとはこの島田春子にお任せあれ!

自信満々にそう宣言し、2人に作戦を耳打ちする。
それを聞いた歌子と正也はオーバーリアクション気味に驚いた。

歌子)え〜!?そういうこと!?

正也)はは〜ん。なるほどな!やさかい侑芽ちゃんにわざと街コン出るよう仕向けたんけ!

春子)そういうことです!

歌子)じゃあさ、もううちに来た時から春ちゃんは色々わかってたいうこと?

春子)えぇ。秒でわかりましたよ!空気読むの得意なんで!

正也)凄いなぁ。さすが学芸員や

歌子)学芸員関係ある?

春子)ないかな(笑)

一同)アハハハ!!

こうして
3人は一丸いちがんとなり春子の作戦を決行することにした。
侑芽と航が戻ってくると3人の笑い声が外まで響いている。

航)何がそんなにおかしいんやろ

侑芽)なんか楽しそうですね!

中に入ると酔ってノリノリの3人がおしぼりを振り回しながら
合唱している。どうやら歌子が山下達郎バージョンの硝子の少年をモノマネをまじえて熱唱し、春子もそれに合わせて歌い、正也は紙吹雪を飛ばして盛り上げている。

航)なんやこれ…

侑芽)アハハ…。だいぶ盛り上がりましたね?

立ち尽くしている2人を見て、
春子が駆け寄る。

春子)あ〜!帰ってきた〜!!

そう言って航の腕にしがみつき、
上目遣いをしながら甘えた声でこう言った。

春子)私、航さんに一目惚れしちゃったんで、今日は航さんちに泊まります♡

航)はぁ?何を言うとるんや…

春子はそれを無視し航に抱きつく始末だ。
だが航はすぐにそれを振り払った。

航)やめろちゃ!

侑芽)ちょっと春ちゃん!酔ってるからってやめてよぉ!航さんに失礼でしょ?

春子)別にいいじゃん。お互い独身なんだし!じゃ、そういうことだから、侑芽は1人で帰ってね〜

侑芽)ダメだって!春ちゃんはウチに泊まるんだから!そろそろ帰ろう?

歌子)侑芽ちゃん!大丈夫!春ちゃんはね、うちにお嫁さんに来てくれるみたいなが。やさかい今夜はうちに泊めるから安心して?

航)はぁ!?なに勝手なこと言うとるんや!

正也)まあまあ、そういうことちゃ!航お前、春ちゃん泊めてやれや。これは俺からの命令や!

航)ダメに決まっとるやろ!!

航はちらと侑芽を見る。すると思わぬ事態にショックを隠せない侑芽が眉を下げて困っている

航)大丈夫や。全員飲みすぎてまともな判断ができとらんだけや。やさかいそんな顔すんなちゃ

侑芽)そ、そうですよね…

春子)いえ、飲みすぎてなんかないですよ!私は本気です!だから今日はダメでも絶対に諦めませんよ!

そう言って春子は意味深に微笑んだ。
航と侑芽は困ったように視線を合わせた。

歩み寄りかけていた2人の未来に
暗雲が立ち込めはじめる。

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