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【小説】連綿と続け No.15

目前に迫った街コンの参加女性に欠員が出たと言う。
男女の数を合わせる規定であるから、
今から参加者を探さなくてはならない。

富樫の声が大きすぎて
電話での会話が丸聞こえだった。
電話を切り途方に暮れている侑芽に航が声をかける。

航)そんなん出んでええ

侑芽)でも…

2人の様子がおかしい事に気がついた歌子と正也は
夕飯を食べながら事情を聞き出した。

侑芽)…というわけで、このままだと私、街コンに参加しなくちゃいけなくて…

歌子)え〜!?やったらウチが出ようか?

そう言ってから
立ち上がってモデル風のポーズをとっている。

正也)やめとけ(笑)クレームきたらまた侑芽ちゃんが大変になるちゃ!

歌子)クレーム?なんで?

正也)なんでて。とし考え〜や

歌子)けどウチ、髪型と化粧でまだまだいける気がするのちゃ!

正也)それもそうやな!

航)アホや…

この2人に相談しても正解が出ないと
航は頭を抱えた。

航)母さんは論外にしても、他におるやろ?役所の人間が。なにも侑芽が出ることないちゃ

侑芽)そうなんですけど…役所内の方はほとんど既婚者らしくて。あと一応今回の企画は20代〜40代の独身ということをうたっているので、それに該当するのが女性だと私と高岡さんだけみたいです

歌子)え〜?じゃあウチ、完全にアウトやわ〜

正也)惜しかったのう!

航)どこがや!?

歌子)けどこのままやと侑芽ちゃんが…。あ!ええこと思いついた!侑芽ちゃんのお友達とか誘うたら?

航)侑芽の友達て…、東京からわざわざ来るわけないやろ!

侑芽)あっ…、1人います!でも金沢からここまでは遠いか…

歌子)金沢やったらそんな遠くないよ?車やったら片道1時間くらいやさかい!

県境付近が山道ではあるが、
県道27号線で金沢と井波は繋がっている。
聞けば何か大きな買い物をする場合などは
富山駅よりも金沢に行くという。

侑芽)そうなんですね!1人来てくれそうな友達が金沢にいるので早速連絡してみます!

侑芽が連絡したのは、
大学の先輩であり親友の島田春子しまだはるこだ。

春子は大学院を出てから金沢にある有名な美術館に就職し、学芸員をしている。侑芽とは飲み会で出会い意気投合し、今では親友と呼べる仲である。

そんな春子は快く了承し、詳しい話を聞きに週末にやって来ることになった。それを知った歌子が「誰に聞かれるかわからないから、うちに呼んで」と説得し、2人は皆藤家で久々の再会を果たした。

春子)侑芽〜!久しぶり〜!

侑芽)春ちゃ〜ん!相変わらず綺麗〜!

春子はやや童顔だが目鼻立ちがはっきりしていてスラッとしたスタイルの美人だ。歩くだけで人目を引き、有無を言わさぬ華やかさがある。本人もそれを自覚しているが、性格は男勝りで、歯に衣着きぬきせぬ物言いをすることもあり、人によっては誤解を受けることも多々あった。ちなみにタバコと酒が大好物である。

休日に実家に来ている航は、
仕事をするフリをしながら工房から2人の話に聞き耳を立てている。

春子)ねぇ、まずは侑芽がどうしてこのおうちの方々と仲良くなったか教えなさい

侑芽)えっと、挨拶周りをしていたら航さんに怒鳴られちゃって、それから…

それが聞こえてきて、
航は飲んでいた水を吹き出してしまう。

航)……!?

春子)はぁ?なにそれ。それなのに何で懇意になってんの

侑芽)う〜んと、それからなんだかんだお世話になっちゃって。今では航さんがお兄ちゃんみたいな存在なの

そう言って笑う侑芽。それを聞いてお茶を吹き出す歌子と正也。
そして工房で頭を抱える航。

歌子)え!?うちの航…侑芽ちゃんにとってはお兄ちゃんなが?

侑芽)はい!厳しい事も優しい事も言ってくれるので、すごく信頼してます

正也)そうけ…。お兄ちゃんけ…

正也は肩を落としてそう呟き、
工房でうなだれている息子に

正也)お前、何やっとるがや。お兄ちゃんて…そらアカン!

航は大きくため息を吐き
気を紛らわすように作りかけの仏像を彫りだす。
春子はそんな一家の様子を見て色々察した。そして

春子)わかった!街コン出る!

侑芽)ホント!?助かる〜!!

春子)ただし、あんたも出るのが条件!

侑芽)へ?ど、どうして?

春子)だって侑芽、彼氏いないんだし、別に出たっていいじゃん?

侑芽)そうだけど…

春子)ん?何々?好きな人でもいるわけ?

航)……!

侑芽)い、いないよ!いないけど…

春子)だったらいいじゃん。飲んで食べて、適当に喋って帰ればいいんだからさ

侑芽)適当にって。春ちゃんとはいいけど…知らない人と飲んだりなんて嫌だよ

春子)出た!侑芽の人見知り!

侑芽)だって、仕事なら人付き合いも頑張れるけど、プライベートで不特定多数の知らない人達に気ぃ使うなんて疲れるだけじゃん

春子)何言ってんの。これって仕事でしょ?それにもしかすると、マジでいい出会いがあるかもしんないじゃん

侑芽)別に出会いとか求めてないもん

春子)あのさあ。前から言おうと思ってたんだけど、侑芽は保守的過ぎなんだよ。合コン誘っても来ない、誰か紹介するっつっても嫌がってさぁ。そんなんじゃ一生、恋愛も結婚も出来ないよ?もっとチャレンジしてみなよ。最初から決めつけないでさぁ

春子は侑芽の弱点をバシバシつついてくる。
それを聞いていた正也や春子はハラハラしているが、
侑芽にとってはそこが春子の良いところだと思っている。

侑芽)確かに…。う〜ん。じゃあ…出てみようかな…

航)…!!

春子)おっ!これだから侑芽は可愛いいんだよな〜!素直で良き!

春子はまるで小型犬をいじくり倒すように侑芽の頭や顔を両手でわしゃわしゃ撫でまわす。侑芽はその手から逃れるようにジタバタもがいた。

侑芽)もぅ!やめてよぉ!

歌子)アハハハ!あんた達、なんや面白いね!

そこへ歌子が手料理と酒を持ってきて
春子を交えた宴会が始まってしまう。

春子)ではご挨拶がてら、この島田春子、富山の酒を飲み干します!

正也)おぉっ!飲まれ!飲まれ!

歌子)ええね!ウチも負けられんが〜

春子は自己紹介をしつつ
すぐに打ち解けた。

酒が進み盛り上がっている最中さなか
航は侑芽を連れ出した。

侑芽)え?どこに行くんですか?

航)俺んち

侑芽)航さんち!?でも、春ちゃん置いていくわけには…

航)大丈夫や。この裏やさかい。それより…話があるが

侑芽)話?…

航は侑芽を自宅に引っ張りこんだ。
そして部屋に入るなり
片手で侑芽の頬をムギュッと掴み、
鋭い眼差しを向けた。

航)街コン、行かんでくれ

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