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変わらない過去とイヤホンから流れるラジオのこと

『みなさん、こんばんは。……です。本日は…』

朝起きて仕事に行くとき、いつもの駅まで40分くらい歩いています。
近くに15分くらいで着く駅もあるのですが、夏や雨の日以外はずっと、仕事に行く前のお散歩の時間としてよく歩いています。

ここ最近は金木犀が咲きはじめ、ふわっと香るたびに「うわ…うれしい…」と、大好きな10月がようやくやってきたかと胸を躍らせて。

暖かい日差しと肌を撫でる涼しい風、秋の花は咲いて草の香りがする。これほどに美しい季節のことを、わたしはとても愛しています。

いつも好きな音楽やYouTubeを聴きながら歩いていたのですが、最近はよくラジオを聴きながら歩くようになりました。星野源さんのANNとか、大好きなゲーム実況者の鉄塔さんの文化放送とか。

たくさんの人が昔から話していることですが、好きな人が話している声やくだらない話、自分では聴くことのない音楽と出会えること、それらすべてが歩く道や空気と調和して、いまは散歩するのがより楽しいです。

ただ一人きり歩きながら風に溶ける時間。

職場ではたくさんの人に気を遣って話さなければならないし、家では休んでいながらもインターネットばかり見てしまう。自分がどんな風に見られて、不安に思うことを鞄に詰めてしまう。

歩いているときは、そんなことをすべて忘れられるような気がします。できるだけスマホを覗かずに、片方だけつけたイヤホンから流れてくる声、鳥の声や遠くで鳴る電車の音。

深呼吸したらどこかの家の金木犀の香りがして、どこにある木なのかと辺りを見渡して、見つけたらどこかうれしい気持ちになる。上を向いて歩けば秋らしいちぎれ雲が漂っているし、下を向いて歩けば地面から近いところで咲く花を見つける。どちらを向いて歩いたっていいんです。

過去を振り返らず、新しい自分にならなければいけないと人は言うけれど、体を前に運びながら振り返れば帰り道、ずっと変われなかったあなたがいます。

それはあなたがたしかに生きている証拠で、あなたの魂が美しいまま変わらない証拠でもあります。変わらなければいけないことが辛くなったら、変わらずに待っているあなたを呼んで。

揶揄されたあなたの優しさを失くす必要はないし、あなたの持つ愛を愛想笑いに変えていく必要もないんだよ。大丈夫。

『次の曲は、わたしが20代の頃…』

もし一人で歩くのが怖くなったら、あなたが好きな人の話し声や歌を聴いて。となりを歩くその人が、きっとくだらない話をして、忘れていた笑顔のことを思い出させてくれます。

この世界を歩いて、目にしたものだけを鞄に入れて。
きっとあなたの旅は、大切なものになるはずだから。

振り返る過去をつくろう。
誰にも変えられないあなたの過去を。

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