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朗読

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2015年6月の記事一覧

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初潮を迎えた夜だった
くらげちゃんと美しい砂浜で話し合ったのだ
「わたしの名前ね、さんずいがないの
くらげちゃんはいいなあ
海だよ、うみ!」
そういうと
くらげちゃんはふふふと笑って
「海になる方法を教えてあげよっか」
と言った
わたしが頷くと
耳元で
「家の鍵を捨てちゃえばいいんだよ」

ひそひそ言う
わたしが驚くと
くらげちゃんは
「くくく」
と笑って
いつものように
わたしの心臓を毒針で

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日常は発光している
暗い海の中
わずかに見える灯台を指して
くらげたちは漂っている
わたしもかつてはくらげだった
ことばはくらげであり
わたしは今や人間の姿をとっているが
触手でからみつき
毒針を刺して
「わたし」ごときを殺してやった
ふわふわと浮いている水死体「わたし」
生きているのは
わたしのくらげのみ
スカートがふわふわと浮いている
白い、白いスカート
さようなら
わたし
何もなしえなかった

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プリズム

長尾早苗

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少年は虹を見たことがなかった。彼の村では、少年が前世で罪を犯したからだという。彼の村ではみな虹を見たことがあるのに、少年だけ虹を見られなかった。そんなある日、雨が降り続けたある日、少年は踊り始めた。泣きながら踊った。舞うということ、それ自体が少年にとって必要なものだった。そう気づいたのだ。かくして、少年は雨を上がらせ、みなの崇める対象となった。ひとびとは少年を神と呼んだ。神殿に昇ったとき、少年には

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