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視線の先にあるもの - 中断された展覧会の記憶 - Christina's will

パリのひとり旅のお供に「ジヴェルニーの食卓」を手に取って以来、原田マハさんのファンになった。

原田マハ「Modern」の「中断された展覧会の記憶 - Christina's will」では、アンドリュー ワイエス「クリスティーナの世界」に描かれた女性クリスティーナが人々を勇気づけるのが印象深い。

東日本大震災がきっかけで中断せざるを得なくなった福島にある美術館の展覧会。
中心人物となる、MoMAの作品貸出し担当者は日系アメリカ人。日本にルーツがあるからこそ、原発事故が起きたことによる周りの反応や日本に対する見方の変化に違和感を感じる。
しかし、実際に危機に直面している福島に出向き、現地在住の展覧会担当者と対面した際には、外国から来たヨソ者感を感じさせる。
物事には当事者にしか分からない経験や心情がある。ヨソ者が当事者と同等になることは不可能だが、ヨソ者だったとしても相手を理解したいという気持ちがあれば、相手の気持ちに寄り添うことはできると教えてくれた。

ふくしま美術館の担当者の娘は絵画の中のクリスティーナに希望を重ね合わせている。
作中のクリスティーナは実在の女性がモデルで、持病により下肢麻痺を患っていた。そのクリスティーナが力強く這って何処かへ向かっている。
辛い状況に見えるが視線は下を向いていない。
顔を上げて遠くにある何かをしっかりと見ながら進もうとしている。
見る側の心情や状況によって受け取り方は異なるだろう。
沈んだ後ろ向きな気持ちであれば、クリスティーナの辛い状況がよりフォーカスされて映るかも知れない。
しかし、この物語の登場人物たちはクリスティーナの姿に勇気付けられ、希望を見出している。
地震、原発事故、やっとの思いで実現した展覧会の中断。悲しい、やり切れない状況にあるが、それぞれが未来は明るいと信じているからこそ、クリスティーナの姿に希望を見出せる。

展覧会の会期終了を待たず、作品はニューヨークに戻ることになってしまったが、これもクリスティーナが選択したこと、と娘が言う。
絵画の中のクリスティーナに意思があり、強い思いが伝われば、クリスティーナはきっと福島に戻ってくるだろう。
願いはきっと実現されるのだろうと、心が暖かくなった。

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