見出し画像

祈願上手 #毎週ショートショートnote

相手選手がこちらを睨む。ゲームが再開した瞬間に攻めてくるつもりだ。俺は身構える。
高校生活の全てを「祈願部」に捧げてきた。そして今、全国大会の決勝で戦っている。1点を追う最終回。審判が「プレイ!」と告げる。ゲーム再開だ。

相手が振りかぶり、両手を胸の前で強く握る。この西洋風の祈りスタイルに序盤は苦しめられた。
次の瞬間、俺は無意識に反応していた。相手の祈りの手の角度が甘い。ミスだ。反撃するならここ!
パン!パン!
二拍手。一礼。幾度となく繰り返した動作は自然に、そして完璧に決まった──

父母会のバスに揺られ家に着いた頃には、随分と暗くなっていた。
戸を開けると、ばあちゃんが立っていた。
「おかえり」
無愛想に言うとばあちゃんは奥に引っ込んでいった。
だが俺は知っている。ばあちゃんが毎日、俺の試合が上手くいくよう神棚に祈ってくれていたことを。お陰で全国制覇を成し遂げた。
「俺なんかより、ばあちゃんの方が祈願上手だな」
俺は笑った。

了(408文字)


以下の企画に参加させていただいています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?