『パーム・スプリングス』感想 悪趣味とカタルシスが交錯する小気味よいSFコメディ

Twitterを眺めていて映画通の皆さんの評判がなかなか良く、ゴールデングローブ賞2部門受賞という触れ込みもあって興味を持ったので、今週は『パーム・スプリングス』を鑑賞。監督は本作が映画監督デビュー作となる、マックス・バーバコウ。出演は制作も兼ねるアンディ・サムバーグ、クリスティン・ミリオティ、J.K.シモンズ他。

【あらすじ】砂漠のリゾート地、パーム・スプリングスでの妹の結婚式にて、一人、場の空気に馴染めずにいたサラは、お調子者のナイルズと意気投合する。式を抜け出し砂漠でいいムードになる二人だったが、突如、謎の老人ロイがナイルズを襲撃する。パニックになるサラをよそに瀕死のナイルズは近くの洞窟へ逃げ込む。制止するナイルズを振り切り、彼の後を追ったサラは、次の瞬間目が覚めると結婚式の朝に戻ってきていた。すぐにナイルズを探し当てたサラが彼に詰め寄ると、彼は結婚式が行われるこの1日をもう何度も繰り返していると語り、サラは自分もこのタイムループに閉じ込められたことを知る。


彼女のミスティに浮気されていることに気付いているものの諦めて黙認しているナイルズと、家族とうまくいっておらず疎外感を感じているサラの距離が縮まっていく序盤のほんのりしっとりした展開が、サラがタイムループに突入した途端に完膚なきまでにぶち壊され、ここから本作のエンジンがかかり始める。このタイムループ、一度眠りに落ちるか死ぬと、1日がリセットされ結婚式の朝に戻ってきてしまう。パーム・スプリングスからどんなに離れても、このタイムループから逃れられないという出口のない状態だ。サラより先にタイムループに囚われたナイルズは、明言はされないものの、おそらく数千、数万回ループを繰り返しており、すでにループからの脱出を諦め、享楽的にループを楽しんでいる。サラはナイルズからループについて聞き出しつつ、なんとか脱出を試みるも、幾度もの挑戦の末、彼女も脱出を投げ出し、ナイルズとやけっぱちになってループを楽しむようになる。ナイルズとサラの悪ふざけが中盤のかなりの部分を占めるのだが、これが本当にひどい。これは褒め言葉の「ひどい」である。今日1日どんなことをしても無かったことになるとなった時に思いつくであろう、ありとあらゆる悪ふざけがブラックユーモアと下ネタでコーティングされて、これでもかこれでもかと畳み掛けられる。ループから抜け出せない悲壮感が裏に流れつつも、とにかくブラックコメディにものすごい勢いで振り切っていくためゲラゲラ笑いながら見れるのがこの作品の大きな特徴だ。

この悪ふざけの中盤を経て、ある出来事をきっかけに、サラが再度ループからの脱出に動き始めるところからクライマックスにつながっていくのだが、本作はこのサラの成長がもう一つの見どころと言える。ループ前は、ある秘密を抱え、伏し目がちにオドオドと結婚式に参加していたサラが、幾度のループを越えて、たくましく成長し、再度結婚式に臨む姿はまるで別人であり、クリスティン・ミオティの演技が光る。同じシチュエーションを何度も繰り返すタイムループものならではの見せ方がされていて、ちゃんと設定が活かされているところも好印象だ。このサラの成長が非常に痛快で、終盤のワクワク感を一手に担っている一方、彼女の成長と反比例するように、余裕ぶり刹那的にループを楽しんでいるように見えたナイルズは、終盤に行くにつれて、その虚勢が徐々に崩れていき、心の弱さが顕になっていく。ナイルズ演じるアンディ・サムバーグのヘラヘラしているが、その裏にナイーブな面も垣間見える演技も素晴らしい。また、J.K.シモンズ演じる、ナイルズへの恨みを持つ老人ロイがもう一人の主要人物として登場するのだが、このロイも素晴らしい。ジュマンジのヴァン・ペルトのような舞台装置的なキャラクターかと思いきや、なかなかそこに留まらない人物で、彼がこの作品にそこはかとないビターな後味を加えてくれる。特に、彼のラストカットが実に印象的なので、ぜひ、その点にも注目してもらいたい。

タイムループものの宿命として、いかに観客に納得させる形で主人公たちを、このループから抜け出させるかという問題があるが、本作はこの点に関してもなかなか満足の行く答えを提示してくれている。ロジックで納得させるのではなく、ストーリーで納得させるという方向性だが、非常に合理的な解決方法に話が進んでいくし、とにかく話運びのテンポが良くスピーディなので、観ながらあれやこれやと考える隙を与えない構成になっているのが上手いところだ。

本作は何かありがたい教訓が得られるようなそういった作品ではないが、ブラックユーモアとSFのワクワクとほんのちょっぴりホロッとする展開が、90分のコンパクトな上映時間にギュッと詰まった快作と言えるだろう。

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