【映画感想】『M3GAN/ミーガン』 ★★★★☆ 4.5点

 子供たちの良きパートナーとなるようにおもちゃ会社によって作られたAI人形・ミーガンが、両親を亡くした孤児ケイディと暮らすうちに彼女を脅かす全ての者を排除する殺戮マシーンへと変貌していく様を描くパニックホラー作品。公式ホームページには「絶叫映画界の新ヒロイン、誕生」とあるが、その看板に偽りなしで本作はこのAI人形ミーガンのキャラクター的魅力が作品の面白さをグイグイと牽引していく。

 ミーガンを構成する要素を分解していくと、チャッキーのごとき恐怖人形、ターミネーターのような暴走AIロボ、シャイニングのような恐怖心を煽る不気味な少女、とそれぞれのファクター自体はどれも使い古されたものなのだが、これを組み合わせることによって、本作では実にフレッシュな新しいモンスターを創造することに成功している。

 あらゆる電子機器に自在にハッキングし、七色の声で大人たちを騙すというテクニカルな強みを持ちつつ、その強靭な体は殴られても傷ひとつつかず、高い身体能力でステゴロも強いというフィジカルな強みもあるミーガンのモンスターとしての万能さが、ホラーなのに実に爽快なのだ。また、そのデザインも秀逸で、ブリティッシュガーリーな服に身を包んだ可愛らしい少女の外見をしつつ、その顔や手にはゴムっぽさもあり、シーンごとに不気味の谷を行ったり来たりする実に絶妙な作り物感を有している。

 さらにミーガンの魅力は、その行動原理が保護対象の少女・ケイディを守ることであるという点にある。作中において、ケイディの本来の保護者はおばであり、ミーガンの開発者であるジェマなのだが、仕事人間で子供への愛情の薄いジェマと比較すると、ミーガンの方がよっぽどケイディのことを真摯に考えているように見え、かつ、ミーガンがケイディの周囲の人物を排除するように行動をシフトしていく過程も非常に丁寧に描かれているため、ミーガンの暴れっぷりに背徳的な爽快感を感じてしまうのである。


 本作はジャンルとしてはホラー映画に分類される作品であろうと思われるが、それほどグロいシーンや恐怖心を煽るようなシーンはなく、どちらかというとパニック映画の要素の方が強い。かつ、最序盤のミーガンの開発現場のシーンからすでにムンムンと漂ってくる90年代SF映画のような緩い空気が、全編を通して要所要所で漂っているため、そこまで気負わずに観られる作品となっている。

 本作はこの緩さが良い方向に作用しており、この緩さがゆえに、突然ミーガンが四足歩行で子供を追いかけ回したり、軽快にダンスを踊りだしたりするような整合性よりケレン味を重視したようなシーンも、すんなりと受け入れ楽しむことができるようになっている。

 しかしその一方で、創造主に歯向かうAIというSF映画で古くから描かれてきた題材の現代版アップデートであったり、「AIに子育てを全部任せられる時代が来ても、本当に全て任せてしまっていいの?」という今の時代ならでは問いかけであったりと、ハッとさせられるような鋭い展開も仕込まれており、ゆったり観ているとふいにグサッと刺されるような深みも包摂していて、実に味わい深い作品となっている。


 本作の顔たるミーガン。美味しい要素の幕の内弁当のようなそのキャラクターの豊かさは、ホラー映画界の新たなポップアイコン足りうるポテンシャルを有していると言っても過言ではないだろう。

 惜しむらくはミーガンが最後の最後でケイディにも牙を剥いてしまう点で、個人的にはミーガンとケイディの双方への愛情は最後まで貫いたうえで決着に持って行ってほしかったように思う。

 とは言え、ラストの雑な大暴走のおかげで、ミーガンには人類に仇なすモンスターとしての将来性が開けたとも言える。すでに次回作の製作が決定しているとのことなので、ぜひ、今後もパート2、パート3と続編を作りまくってもらって、増殖、巨大化、他のロボットとのキメラ化など色々とやってもらい、パート10くらいで宇宙に行ってもらいたいところだ。

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