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ぺらいちショートショート⑲『人魚の檻』

ぺらいちショートショート⑲
『人魚の檻』


 海岸からほど近いそのお寺は、山に抱かれるように建っていた。

 苔むした階段を登りきると山門があり、※※寺と書かれた扁額へんがくが掲げられていて、振り返ると海を一望する事が出来た。

 境内には草木に隠れるように朱色の格子戸が嵌った岩窟があった。
『この格子で閉ざされたみちは海へと続く』という伝承があるらしい。

 すぐ側には小さな塚があり『人魚塚』と書かれていた。
 シーグラスや貝など見目麗しい物が供えてあり、海の寺の風習なのかと面白く思う。

 私は格子の隙間から内を覗き込み潮の香りを嗅いだ。
 耳を澄ますと、歌声とも啼き声ともつかぬ音と波の音。

 ああ。噫。噫……。
 ざ。ざ。ざざーん……。

 強い風が吹いた。

 岩窟の奥闇から桜の花びらがひらひらと、いくつも舞い出てきた。

 私は花びらを目で追いつつ、潮風に乱れた髪を手櫛ですいた。

 ──かさり。

 手の内を見ると、花びらだと思ったのは全て桜色のウロコであった。

(了)

#ショートショート  #ぺらいちショートショート  #短編小説 #不思議な話


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