見出し画像

ぺらいちショートショート⑭『顔(Face)』

ぺらいちショートショート⑭
『顔(Face)』


 2019年4月某日。夜。

 長らく続いた平成が終わり、新しい時代──令和が始まろうとしている。

 女の携帯が振動した。『彼』からのメッセンジャーだ。
 円く切り取られたアイコン。男の美しい顔に女の胸は高鳴る。

 ──会った事も無いのに『結婚したい』だなんて、変な男だと思うかい?

 ──ううん。私たち、心は通じ合っているわ。

 ──嬉しいよ。令和は僕たちの年にしよう。

 ──私も嬉しい。そう云えばお札も一新いっしんするけど、どうしていつも人の顔なのかしらねぇ?

 ──ああ。人間は人の顔の違いに一番敏感なんだ。少しの変化でも違和感を覚える。
 人の顔を使う事で偽札防止にせさつぼうしに一役買っているというわけさ。

 ──博識ね。確かに若い女の子の自撮り画像とか……加工のし過ぎで原型を留めていない子いるものね。

 ──はは。毒舌だね。それより着いたよ。六本木ヒルズ。

 ──私もよ。蜘蛛のオブジェが見えてきた……あら?

 ──どうしたんだい?

 ──アイコンと同じ『顔』を探しているのだけれど、居るのは……。

(了)

#ショートショート  #ぺらいちショートショート  #短編小説 #不思議な話


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?