ぺらいちショートショート⑳『夢の摘蕾 (ゆめのてきらい)』
ぺらいちショートショート⑳
『夢の摘蕾 (ゆめのてきらい)』
──ち。ち。ち。ぷつり。
赤い花。青い花。白い花。
──噫。なんて美しいんだろう。
──噫。なんて馨しいんだろう。
同じ道行の者たちが咲かせた夢の大輪。
先人たちが咲かせた花を、憧れ愛でるも楽しいが、私はいつの頃からか、自分の花を咲かせてみたいと思っていた。
──私が咲かすべきは、この花木──この蕾。
唯これ一つだと信じ、一生を費やすのだ。
大きく咲かせる為、一輪にのみ愛と栄養を注ぐ為。
他の蕾は摘み取ってしまわねばならない。
──ち。ち。ち。ぷつり。
──キ。キ。キィ。
選ばれなかった蕾たちの悲鳴を聴きたくなくて、手早く摘蕾を済ませる。
──漸く終わらせるやいなや日が陰り黒々とした不安に駆られる。
──摘み取ってしまった蕾の中に『本当の花』があったかもしれない。
私は花木の前にひざまづき、祈るように呟いた。
「どうか、この蕾が『私の花』でありますように」
はたはたと頬を伝い落ちる雫が地面に黒いしみを作り──花木は確かにそれを飲み干した。
(了)
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