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ぺらいちショートショートまとめ

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ぺらいちショートショートまとめマガジンです。 ※ぺらいちショートショート  →原稿用紙一枚400字前後のショートショート(造語)です。
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ぺらいちショートショート⑳『夢の摘蕾 (ゆめのてきらい)』

ぺらいちショートショート⑳ 『夢の摘蕾 (ゆめのてきらい)』  ──ち。ち。ち。ぷつり。  赤い花。青い花。白い花。  ──噫。なんて美しいんだろう。  ──噫。なんて馨しいんだろう。  同じ道行の者たちが咲かせた夢の大輪。  先人たちが咲かせた花を、憧れ愛でるも楽しいが、私はいつの頃からか、自分の花を咲かせてみたいと思っていた。  ──私が咲かすべきは、この花木──この蕾。  唯これ一つだと信じ、一生を費やすのだ。  大きく咲かせる為、一輪にのみ愛と栄養を注ぐ

ぺらいちショートショート⑯『なれそめ (御縁がありますね/昭和)』

ぺらいちショートショート⑯ 『なれそめ (御縁がありますね/昭和)』  初めてその方に逢ったのは、女学校に通う路面電車の中だったわ。  次に会ったのは停留場内。  品のいい書生さんで目が合って会釈をされて、ドキンとしたわ。  私、学校帰りに喫茶店に行って珈琲を飲みながら空想の世界に浸るのが好きだったの。  喫茶店に入るのは保護者同伴でないと本当はダメなんだけれどね。  ある日、カランとドアが開いて、その方が入って来て「やぁ」と云いながら私の向かいに座ると自分も珈琲を頼ん

ぺらいちショートショート⑲『人魚の檻』

ぺらいちショートショート⑲ 『人魚の檻』  海岸からほど近いそのお寺は、山に抱かれるように建っていた。  苔むした階段を登りきると山門があり、※※寺と書かれた扁額が掲げられていて、振り返ると海を一望する事が出来た。  境内には草木に隠れるように朱色の格子戸が嵌った岩窟があった。 『この格子で閉ざされた途は海へと続く』という伝承があるらしい。  すぐ側には小さな塚があり『人魚塚』と書かれていた。  シーグラスや貝など見目麗しい物が供えてあり、海の寺の風習なのかと面白く思

ぺらいちショートショート⑱『おかしな競技』

ぺらいちショートショート⑱ 『おかしな競技』  ででん。と僕らの前に立ちはだかる青々としたJellyは富士山みたい。  ふわふわたっぷり。生クリームは入道雲のよう。  てっぺんに真っ赤なチェリーが一粒。  お日様みたいに輝いている。  ジェリーフラッグ、三時大会。  ひとつのジェリーを交互に食べて、先にチェリーを落とした方が負け。  緊張するけれど、ここで匙を投げだすわけにはいかない。 「位置について──用意」  ──パァン!!  クラッカーが鳴るやいなや大

ぺらいちショートショート⑰『蛹カプセル』

ぺらいちショートショート⑰ 『蛹カプセル』  20××年。美容整形業界に新技術が登場した。  ──蛹カプセル。  今、僕の目の前でオパールの様な遊色を放っている、寝袋のような形状のモノがそれである。  芋虫が蝶に変わる技術を応用したものだそうだ。  それを壁に立てかけ、中に入り一週間寝る。  すると7日目の朝に、誰でも美しく生まれ変わって出てくるのだ。  今朝は被験者第一号の女性患者がカプセルから羽化する日である。  僕と院長は今か今かとその時を待っていた。  ─

ぺらいちショートショート⑮『なれそめ (御縁がありますね/令和)』

ぺらいちショートショート⑮ 『なれそめ (御縁がありますね/令和)』  初めてその人に逢ったのは通勤の電車内だった。  次にその人に逢ったのは駅構内。  同じ駅に住んでいるのかな? ちょっぴりドキンとした。  言葉を交わすでもないけれど、何となく意識しはじめたのもこの頃だ。  休日、近所のカフェでひとり昼食をとっているとカランとドアが開いて、なんとその人が入ってきたの。  私、びっくりして思わず「あ!」って声を出しちゃったわ。  そうしたらその人が近づいて来て「奇

ぺらいちショートショート⑭『顔(Face)』

ぺらいちショートショート⑭ 『顔(Face)』  2019年4月某日。夜。  長らく続いた平成が終わり、新しい時代──令和が始まろうとしている。  女の携帯が振動した。『彼』からのメッセンジャーだ。  円く切り取られたアイコン。男の美しい顔に女の胸は高鳴る。  ──会った事も無いのに『結婚したい』だなんて、変な男だと思うかい?  ──ううん。私たち、心は通じ合っているわ。  ──嬉しいよ。令和は僕たちの年にしよう。  ──私も嬉しい。そう云えばお札も一新するけど

ぺらいちショートショート⑬『白猫さん。黒猫さん』

ぺらいちショートショート⑬ 『白猫さん。黒猫さん』  最近は黒猫が流行っているらしい。  なんでもお洒落でカッコイイからだそうだ。  昔は縁起が悪いだの魔女の使いだのと悪く言っていたくせに、人間は本当に勝手な生き物だ。  流行りに乗じて中にはわざわざ黒く染める輩もいるらしい。  軽薄なことこの上ない。  ──いやぁ。色ムラが出来ないように維持するの、けっこう大変なんだぜ。  と、黒猫。  ──なんだお前、染めていたのか。  と、白猫。 (了) #ショートショ

ぺらいちショートショート⑫『女狐の窓』

ぺらいちショートショート⑫ 『女狐の窓』  化性の者か、魔性の者か、正体をあらわせ。  化性の者か、魔性の者か、正体をあらわせ。  化性の者か、魔性の者か、正体をあらわせ。 「こうして呪文を三回唱えて、両手で印を結ぶでしょう?そんで、その穴から覗きますと、狐狸妖怪の類いが人間様に化けてても、見破れるってぇまじないなんですわ。」  兄貴は美人女将が作った料理を喰いもせず、彼女の手をベタベタ触りながら『狐の窓』の組み方を教えている。  この山小屋が運よく見つから無ければ

ぺらいちショートショート『満月の幸せ』

ぺらいちショートショート⑪ 『満月の幸せ』  人魚が友達のハリセンボンに云った。  ──ニンゲンから聞いたんだけどね。  ──「辛い」という字に一つ棒を足すと  ──「幸せ」になるんだって。  だからさ。  アタシが今こんなにも辛く哀しいのは、誰かがアタシの横一文字を引き抜いていったからに違いないよ。  ハリセンボンは目をパチクリさせると、意を決したようにぷくうっと膨らんだ。  そうして犬の様にブルルッと身震いをして  その身から針を全てふるい落とすと、一番上等な美

ぺらいちショートショート⑩『ひとつ星てんとう虫』

ぺらいちショートショート⑩ 『ひとつ星てんとう虫』 「ひとつ星てんとう虫。みつけた!」  暮れなずむ川原。小さな娘の姿を隠さんばかりに草木が生い茂っている。  ──いいかげんに帰ろうよ。  と、声をかけた時である。  嬉しそうに両掌を籠のように合わせ、娘が駆け寄って来た。 「ママ! ひとつ星てんとう虫。みつけた!」  ──ひとつ星てんとう虫なんて種類は無いんだけどなぁ。  ──二つ星てんとう虫か他のてんとう虫と間違えているのかな。  田舎育ちで虫が好きだった私は、

ぺらいちショートショート⑨『アリスの薔薇』

ぺらいちショートショート⑨ 『アリスの薔薇』  はい。皆に行き渡ったかな?   私の研究の成果『アリスの薔薇』──ささやかではありますが、本日この有栖川研究室をめでたく卒業する諸君への餞別です。  あはは。露骨にがっかりした顔をしないで下さい。  こちらは一見何の変哲もない白薔薇ですが、未だかつてない機能を兼ね備えるよう私が開発した新種なのです。  ──え? もったいつけてないで、どんな機能があるか教えろ?   ──いいでしょう。  この白薔薇は持った者が嘘をつくなど激し

ぺらいちショートショート⑧『猫目椿』

ぺらいちショートショート⑧ 『猫目椿』 「シロを宜しくね。心配なの」  祖母の最後の言葉は  私ではなく、愛猫へ向けたものであった。  家の庭には草花や椿の古木がある。祖母が大切にしていたものだ。  私は祖母を想い、よく庭に降りるようになった。  シロもまた祖母を想い、よく啼くようになった。  その啼き声は私を苛立たせた。  通夜葬式の慌しさが一段落したある日、庭で卵大の石を見つけた。  気が付いたら拾ってシロに向けて投げていた。  ――ゴッ。  彼女は私を睨むと

ぺらいちショートショート⑦『黄金色の恋』

ぺらいちショートショート⑦ 『黄金色の恋』  雷の事を稲妻とも呼ぶ。  ──雷には稲をはらませる力がある。  そう思われていた時代に、ついた名称らしい。  青い稲が秋に美しい金色の稲穂となり、  たわわに実をつける不思議さもそう考えれば下手な恋愛小説よりも浪漫がある気がする。  夕立ちが通り過ぎるのを待ちながら、  そんな事を考えていたら  雷鳴が轟き、我が身に落ちた。  やがて秋になると私の髪は黄金色に染まり、  あの時に龍の子を身籠ったのだと確信した。 (了)