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読書メモ:ショーペンハウアー『読書について』(光文社)

無知は人間の品位を落とす。

p.98

最初の一文がこれなので痺れる。無知は人を傷つけるとか言うけれど、他人がどうこうではなく、品位がなくなる。


さらに、紙に書き記された思想は、砂地に残された歩行者の足跡以上のものではない。なるほど歩行者がたどった道は見える。だが、歩行者が道すがら何を見たかを知るには、読者が自分の目を用いなければならならない。

pp.99-100

兎に角、ショーペンハウアー先生は「ただ本を読む」ことに警鐘を鳴らしたい。本を読むとは誰かの思考を借りることでしかなく、ただ読むだけでは何にもならない。にも関わらず、読んだだけで(何なら買っただけで!ありがち)自分の思考の一部になった気になる読者に、激おこである。


国民の健康管理をあつかう当局は、読者の目の健康のために、一定サイズより小さな活字を使わないよう監視の目を光らせてほしい。

p.101

読書という行為の話をしている途中で、突然「失明怖いから小さい活字規制してくれ」って言い出して可愛い。


悪書から被るものはどんなに少なくとも、少なすぎることはなく、良書はどんなに頻繁に読んでも、読みすぎることはない。悪書は知性を毒し、精神をそこなう。
良書を読むための条件は、悪書を読まないことだ。なにしろ人生は短く、時間とエネルギーには限りがあるのだ。

p.103

これはあまりに本質。自分も一言一句取り逃がさないように読もうとしていた頃より、多少逃してもいいや/合わないなら読まなくてもいいやという心持ちで読むようになってからの方が楽しい気がする。人生は短く、時間とエネルギーには限りがある。


あらゆる時代、あらゆる国の、ありとあらゆる種類のもっとも高貴でたぐいまれな精神から生まれた作品は読まずに、毎年無数に 孵化するハエのような、毎日出版される凡人の駄作を、今日印刷された、できたてのほやほやだからというだけの理由で読む読者の愚かさと勘違いぶりは、信じがたい。むしろこうした駄本は、生まれたその日のうちにさげすまれ、うち捨てられるべきだ。いずれにせよ数年後にはそのような扱いをうけ、過去の時代のたわごととして、永遠に物笑いの種になるだけだ。

p.104

新刊だから読む、話題だから読む、といったことにショーペンハウアー先生は非常に厳しい。そもそも、毎年量産される本のほとんどは数年後には忘れ去られるような品質の悪書なのだ。それを「孵化するハエ」とか「駄本」とか言っちゃうあたりはお茶目さ()を感じざるを得ないし、必ずしも品位のためだけに読んでいるわけではないから大衆文学などに罪があるとは思わないが、一方、アジテーションのような内容の薄い本もあったり、間違った知識を流布する本が売れてしまったりという現実もある。先日も『中野正彦の昭和九十二年』がヘイト本ではないかと出版社内部から告発を受けて、回収になったと聞く。当該図書の内容の是非については詳しくないので言及はしないが、「言論の自由」と「言論の影響力」と「あるべき社会」は密接に関わっており、我々は自浄作用というものについて考えなければいけない。


思想体系がないと、何事に対しても公正な関心を寄せることができず、そのため本を読んでも、なにも身につかない。なにひとつ記憶にとどめておけないのだ。

p.106

これも面白い。本は出版された時点で、著者の手を離れ、解釈の自由に委ねられるものだが、一方の読者もぽけーっと読んでいれば解釈できて身になるというものでもないらしい。自分なりの姿勢を持って挑まなければいけない。例えれば、本と対話しなければならないということではないかと思う。


文学史はこうした人類の進歩の歴史にふさわしく、大部分は失敗作の標本収集カタログにすぎない。

p.111

人類は失敗を繰り返すというが、それのカタログが文学史というのが興味深い。


感想雑記

ショーペンハウアー先生が終始お口が悪めで非常に楽しかった。

大枠として受け取ったのは2つ、
①世の中は駄本だらけなので、良い本を読め。良い本は短期間で消え去らないものであり、つまり古典である。
②文化は繰り返すものであり、ぐるぐる回りながら成長していくものである。

②に関して、ショーペンハウアー的には「一時期称揚されていたドイツ哲学(フィヒテ・シェリング)だってよく見ればゴミだもん!!!」みたいな感じで、「周転円」(p.108)から外れたものを悪とするが、当時悪とされたものが後々大きく巡り巡って正とされる場合もあるから、②から①に繋げるのが難しいなぁと思った。
正直、フィヒテ・シェリングの評価をよく知らないので何とも言えない例だけれど。

あと解説にあった、「ヘーゲルに挑戦状叩きつけるつもりで、ヘーゲルの授業の裏に授業開講したら、ヘーゲルの授業には200人超受講生が来たのに、自分は8人でプライド折れて教師辞めちゃった(大意)」話、あまりにやんちゃで可愛い。出版社に「この本は今までの本とはマジで違う、発見だ」みたいな熱意の手紙送って出版したところ、1年半で100冊しか売れなかったのも可愛い。ショーペンハウアー、自信先行型らしい。

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