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読書メモ:川添愛『言語学バーリ・トゥードーーAIは「絶対に押すなよ」を理解できるか』(東京大学出版会)

メモ(個人的解釈部分有〼)

04. 恋人〔は/が〕サンタクロース

 「恋人はサンタクロース」と覚えがちな松任谷由実の曲だが、実際の題名は「恋人がサンタクロース」。ではなぜこのような誤用をしてしまうのか?
 「A〔は/が〕B」という文章はコピュラ文と呼ぶらしい。コピュラ文における助詞の使い分けがこの章の問題である。「は」は旧情報、「が」は新情報につくというのは我々でも説明がしやすいが、実際にはそれだけでこの使い分けができているわけではない。
 そこで、それぞれの助詞のコピュラ文の場合に、A/Bが役割を表すのか、特定のものを指すのかを考える。この流れが非常に納得感があって面白い。「恋人はサンタクロース」という時、確かに言われればひげもじゃのサンタさんが恋人だったという感はあるかも…?では「が」では?

09. 本当は怖い「前提」の話

 相手をうまく誘導したい時、文章に前提をさらっと織り込んでしまうという戦法がある。「あなたは猫が好きですよね?」だと否定しやすいが、「あなたが好きな猫はベンガルキャットですか?」だと、「あなたが好きな猫」の部分に「あなたは猫が好き」という前提が密かに織り込まれており、否定のハードルが少し上がる。
 僕はこの手の誤謬的な話を見るとワクワクするのでこの章を楽しんだ。これってなんか名前のついた誤謬とかだっけ?(そもそも誤謬ではないか)と思って検索したら、あまりに誤謬には種類が多く辟易して諦めてしまったのは余談。


感想雑記

 言語学の話と筆者の趣味であるプロレスの話、ぎりぎり後者の方が多いのでは(※過言)と笑ってしまうほど、プロレス愛に溢れているが言語学のエッセイとして非常に面白い。言語学を知らない人が嫌にならない程度の言語学知識を混ぜながら、日常の「言われてみればあれ?確かに不思議だな」という日本語の謎に分け入っていく。ちなみに、他言語学者から責められるのは嫌なので分け入っても分け入っても、までは言語学の世界に入って行かない。でもそれくらいの軽妙さが初学者にはちょうど良い塩梅である。


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