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2023年11月FOMC パウエル議長会見要旨

会見内容のうち個人的に重要と思うところをハイライトしています。記事自体は日経より転用です。

キーワード

  • 利上げはより早くより高くより長く

  • 利上げの効果は時間差がある

  • 住宅市場に最初に影響が出ている

  • 労働市場は非常に強い

  • インフレの抑制には、潜在成長率を下回る成長率を持続させることが必要(低GDP)

  • 不景気に対応はできるが、インフレスパイラルに入ってしまえば戻れない


FRB議長会見要旨 利上げ到達の水準「まだ道半ば」


FRBのパウエル議長は金融政策の効果が現れるには時間がかかると説明した(2日、ワシントン)
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は2日、米連邦公開市場委員会(FOMC)終了後に記者会見を開いた。「金融政策の効果が完全に浸透するには、特にインフレにおいては時間を要する」と述べ、時間差を考慮して利上げペースを落とすことを示唆した。インフレ抑制については「道半ば」と強調した。主な発言と質疑応答は以下の通り。


本日、FOMCは政策金利を0.75%引き上げると決めた。利上げの継続が適切だと考える。バランスシートの規模を大幅に縮小するプロセスを続ける。物価の安定を回復するには、当面の間金融引き締め姿勢を維持する必要がある。

米経済は大きく減速

米経済は大きく減速している。個人消費は実質可処分所得の減少や、金融引き締めを反映し、2021年の急激な伸びから減速している。住宅市場は住宅ローン金利上昇により、著しく弱まっている。金利上昇や生産高の伸びの鈍化も、企業の設備投資への重しとなっている。

成長率の鈍化にもかかわらず、労働市場は極めて逼迫した状況だ。失業率は50年ぶりの低水準にあり、求人倍率は非常に高く、賃金上昇率も大きい。雇用は堅調で、8、9月は月平均で28万9000人の雇用増となった。雇用増のペースは年初より鈍化しているが、労働市場は引き続き需給の均衡を欠いており、求人需要が労働者の供給を大幅に上回っている。

インフレは2%目標を大きく上回っている。最近のインフレデータは再び予想を上回った。幅広い商品とサービスでインフレ圧力が明白に残っている。ロシアのウクライナ侵攻はエネルギーと食料の価格を押し上げ、さらなる物価上昇圧力をもたらしている。

政策効果の発現、対インフレは時間要する

インフレの加速にもかかわらず、長期的な期待インフレ率は家計、企業などの調査などでみられるように依然として固定されているが、それで満足してはならない。現状の高インフレが長引くほど、期待インフレ率が高水準で固定する可能性が高まる。

我々は、高インフレが購買力を低下させ、食料や住宅、交通などの必需品のコスト上昇に対応できない人々にとって大きな苦難をもたらすことを痛感している。インフレを目標の2%に戻すため力を尽くしている。

本日、FOMCは政策金利を0.75%引き上げると決めた。利上げの継続が適切だと考える。バランスシートの規模を大幅に縮小するプロセスを続ける

22年に入ってから3.75%金利を引き上げた。インフレを2%に戻すには継続的な利上げが適切だ。我々の政策に呼応し、金融環境は大きく引き締まり、住宅など金利に最も敏感な経済セクターの需要に影響が生じている。

金融政策の効果が完全に浸透するには、特にインフレに対しては時間を要する。従って声明では将来の利上げペースを決めるにあたり、累積的な金融引き締めと、金融政策が経済活動やインフレに時間差で影響を与えることを考慮すると述べた。

十分に引き締まれば利上げ減速

過去2回の記者会見で述べたように、ある時点では、物価上昇率を2%目標に下げるために十分に引き締まった金利水準に近づけば、利上げペースを減速させることが適切になるだろう。その金利水準は極めて不透明だ。まだ道半ばであり、前回の会合以降に入ってきたデータをみれば、最終的な金利水準は以前の予想より高いことを示唆している。

我々の判断は今後のデータと、経済活動やインフレ見通しに基づく。我々はできるだけ明確に考えを伝えていく。

我々は需要と供給がより調和するよう、強力な手段を講じている。インフレの抑制には、潜在成長率を下回る成長率を持続させることが必要だ。過去の歴史は、早まった緩和転換を強く戒めている。我々は、仕事が完了するまで方針を維持する。

利上げペース減速、早ければ次回会合で議論

――12月の次回会合までにインフレ指標が改善すれば利上げペースを緩める可能性があるか。

「インフレが着実に低下する状況を見たいが、それが利上げペースを緩めるための適切な条件とは考えていない。2%目標まで下げるために十分な引き締め水準をどう判断するかは、実体経済やインフレへの影響を評価し、関連するあらゆるデータを考慮する。時間差も考慮に入れる。イールドカーブ(利回り曲線)や実質金利など、金融市場の状況も見ていく

我々の実施する引き締めプログラムは利上げペース、利上げ幅、どの程度引き締めた水準に留め置くかという3つの柱から成り立つ。我々は歴史的に速いペースで利上げをし、それは適切だった。まず継続的な利上げが適切であり、どこまでやるかは改めて伝える。労働市場や消費者物価指数(CPI)の状況を踏まえると、9月の会合で示した到達点よりも高い水準まで利上げする可能性を示唆する。その水準は不透明だが、いずれ明らかになるだろう」

利上げペースの減速が適切となる時期はいつか来る。早ければ次の会合、もしくはその次かもしれない。次回の会合で議論はするだろう。物価上昇率がFF金利をはるかに上回っていることを踏まえれば、現在の金利水準が引き締め気味とは言えない。引き締めペースが速すぎたとも思っていない。今後も引き締めの必要があるとみている」

――これ以上利上げの必要はないと考える金利水準とは。

実質金利がプラスになる水準まで政策金利を引き上げたいが、それだけが利上げの目安ではない。イールドカーブ全体を見る必要がある。政策金利に沿ってお金を借りる人はほとんどいない。家計や企業にとって、クレジットスプレッド(基準金利に対する上乗せ幅)が拡大しているため、借入金利は大幅に上がっているこうした点で金融情勢はかなり引き締まっており、私は重要な点とみている

景気の軟着陸、過去1年で狭まったが可能

――景気のソフトランディング(軟着陸)の可能性は狭まったか。まだ可能か。

「可能だ。金利が上がり高止まるほど可能性は狭まる。過去1年で確実に狭まったといえる。インフレ率は下がってきているが、我々の期待したほどではなく、より引き締めざるを得なくなっている。一方、労働市場が示すデータは極めて異例だ。通常は景気が悪化すると求人数が減り、それが失業率(の増加)につながる。だが今回は求人数が多く雇用の喪失は以前より少なくなる可能性がある。景気後退が起こるかどうかは誰にもわからない」

――インフレ率が高止まりするリスクは。

長期的な期待インフレ率が上昇すれば非常に困ったことだ。期待インフレ率は企業の賃金の設定に影響を及ぼすかもしれない。高インフレが1年半続いているわけだが、どの時点で高インフレが定着するのかを判断する科学的な方法はない。従ってリスク管理の立場から我々のツールを思慮深く使う」

利上げ停止の議論、時期尚早

――利上げの効果には時間差があるとのことだが、具体的にどの程度か。

「金融政策は一般的に金融市場、経済活動、さらに遅れてインフレという順で作用する。古い文献ではこの期間はかなり長いとされ、新たな文献では短いと指摘する。実際のところ、現代経済においてこれほど高いインフレ率のデータがあまりない」

「金融市場が中央銀行の行動を考えて反応し、経済への影響が早まるという指摘もあるが、はっきりとは分からない。経済に実際に何が起こっているのかを注視し、リスク管理の観点で適切に判断することが重要だ。利上げの停止について考慮するのは時期尚早だ

――住宅市場は明確に金融引き締めの影響を受けているが、米経済全体への影響はまだ薄い。金融政策の影響力が弱まっていると感じるか。住宅市場への懸念は。

「金融政策が機能する経路が大きく変わったとは思わない。労働市場の過剰な需要と米家計の貯蓄の多さを考慮すると、インフレ抑制には時間と忍耐が必要だろう。住宅市場は金利に敏感で、住宅ローン金利は(08年の)金融危機前の水準だ。住宅市場は(新型コロナウイルスの)パンデミック(世界的大流行)下で過熱しており、需給バランスを取り戻す必要がある。金融安定性の点でいえば、金融危機前と異なり信用の低いローン引き受けは今回はみられない

――住宅市場の低迷ぶりは政府より民間指標の方が色濃く出ている。遅行する政府の指標を重視するのか、民間の指標もみるのか。

「CPIやPCEの家賃は新規契約だけでなく、(更新を含む)あらゆる借り手を含んでいる。概念的には金融政策にとっては正しい指標だ。民間の指標は新規の賃貸契約を調べる際に適している。新規契約の家賃は、CPIや個人消費支出(PCE)の家賃よりずっと早く下がっており、いずれ(CPIなどの)家賃の上昇率が鈍化することを示している」

賃金上昇、インフレの主因ではない

――インフレと労働市場との関係で賃金上昇をどうみるか。賃金がインフレをもたらしているのか。

「賃金指標は複雑だ。平均時給はインフレ目標の2%に見合わない水準で高止まりしている。民間企業全体で報酬は減っているが、労働市場は過熱している。労働需要が落ち着く兆しを探しているが、本格的な鈍化はみられない

賃金はインフレに影響を及ぼし、インフレは賃金に影響を及ぼす。これは定説だ。だが今回は賃金はインフレの主因ではないと考える。賃金とインフレのスパイラルも見られない。我々は賃金が上がることを望んでおり、インフレ目標の2%に見合った水準で上がってほしい」

ドル高が試練となる国も

――世界経済をどうみているか。

「難しい局面にあることは明らかだ。欧州ではロシアのウクライナ侵攻でエネルギー価格が上がり、高インフレが起きている。中国はゼロコロナ政策で成長が鈍っている。ドル高が試練となっている国もある。我々の政策の波及効果を分析している。米国経済は強いが、インフレ抑制のため手段を講じる必要がある。米国の物価安定は長期的に世界経済にとって良いことだ

――FRBは米国外で起きた紛争によるエネルギーや食品価格の上昇に対処できるツールがないとしている。利上げを続けてもこうした価格が下がらない可能性は。

「多くの食品やエネルギー価格に我々が直接影響を及ぼすことはできない。米経済の多くの部分でみられる需給の不均衡の是正には取り組める。石油価格は国際的に決まるもので、我々は関与できない。だが我々の行動で長期的な期待インフレ率を安定させ、国民が2%のインフレ(に戻ること)を信じることができる」

インフレ抑制は道半ば

――以前、金融引き締めが多少強すぎた方が弱すぎるよりリスクが低いと述べていた。今の考えは。

私の見解は変わっていない。インフレを抑えるまで変わらないだろう。強すぎる金融引き締めを行うつもりはないが、過剰であれば対応する手段がある。一方、引き締めが弱すぎて高インフレが長期化すれば、そのときは戻れない。国民を守るためのコストは時間がたつほど上がる。インフレ抑制は道半ばにある」

――金融市場とどう対話していくか。

「我々のメッセージは常に明確であるべきだ。まだ道半ばで、金利については取り組むべき余地があると考える。十分な引き締めにある水準に到達する前に、その旨を声明文に明記するつもりだ。現時点でインフレが収束していくという感覚はない。やり遂げるという我々の決意を理解してもらいたい。中途半端にやめたり、強力な政策を早々に撤回したりするような過ちを犯さないようにしたい。そうしたメッセージを管理するのが私の仕事だ」

――米政府の財政支出はインフレ抑制にどれほどの逆風か。

理論的には逆風だったが、広い意味では家計が多額の余剰貯蓄を抱え、支出を続けられる。個人消費はまだプラスだがかなり小幅だ。財政的な逆風がどれほどかはわからない。貯蓄が需要を支えるだろう。労働市場は依然として強い需要がある。我々の仕事にはある程度の覚悟と忍耐が必要であり、時間をかけて解決していかなければならない」

(米州総局=大島有美子、伴百江、赤木俊介、佐藤璃子)

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