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心内日記 2023/2/7

深層にある扉は半透明のべとべとに覆われていた。べとべとはなんとも美味しそうな匂いがしている。
恐るおそる口に入れてみると、見た目に反してとてつもなく美味しい。

目に見えて腹が膨らむほど、べとべとを食べ尽くすころに、ぐぎぎとノブが回り、揺らすとめこっと音がして、扉が開いた。
ゆるやかに風が吹いているようで、積もったほこりが暗い空間から煙のようにこちらに這い出してくる。

急に腹痛が襲ってきた。パンパンの腹を見れば仕方がないように思えるが、これは尋常ではない痛みだ。
息も絶え絶えにトイレを探す。粗相はしたくない。
それらしい小部屋を見つけて急いで用を足しにかかる。

便器に触れた尻がヒヤリとしたが、気にしている場合ではない。
しばらく座り続ける。
おかしい。用を足し始めてから今までずっと、その勢いを弱めることなく出続けている。
そろそろ脱水かなにかで死んでしまうのではないかという不安がむくむくと起き上がる。

しかし不思議なことに、塞いでいた気分はうきうきと弾みだし、歌いだしそうな、空をも飛べそうな爽快な心持ちに変わってきて、ふと興味が湧いた。便器の中身に。
上半身を捻って、目を凝らす。
尻と便器の間から見えたものは、なんと宇宙だった。

思わず立ち上がって、尻の方を見た。
尻から、黒い霧のようなもやもやが出て、その流れの中に銀河がくるくる回りながら生まれてくる。
これはすごい。しっかりと確認してしまった。
宇宙を便器の中だけに留めて置くのはもったいない。部屋を一面、宇宙にしてやろう。

これは愉快だ!
床にも壁にも天井にも、宇宙を塗りたくる。
部屋の全てが暗闇になって、身体は浮き上がる。
無重力を初めて体感して、一層愉快だ。
そうだ、遠くの銀河まで泳ごう。
星々を追い越して、あの光まで。

くるくる回転したり伸びあがったり縮んだりしながら、ものすごい速さで遠くの銀河へ。
目指す光が大きくなる。
大きく大きく。眼前いっぱいに広がって、眩さに意識が焼き切れそうだ。
そうか、夢が眠りに就こうとしているのだな、とひとり納得して目を閉じる。
真っ白にふつりと途切れた。

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