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心内日記 2019/8/22

俺もわたしも僕もわしも、全て幻想の中にしか存在しない。
表層は肉体ではない。
フランス人形が金切り声で切りかかってくる。
「僕らが君の味方だと思っているなら、大きな間違いだよ」
胸に指を突き立てて、青い心臓を宿した少年は言い放って暗闇に消えた。

変わり映えしない心内人物。
……ほんとうに?

その少年は、この間潜った時と同じ子だと言い切れる?
積み木遊びする三歳児の顔を覚えている?
少女の髪はそんなに長かったっけ?

猜疑心が歪んだ黒い怪物を生み出す。
何度も崩壊して萎んでいく。
同じもの同じことは一瞬先には存在しない。



2019/8/24

今日も黒蟻が行列を作っている。畳の間にある箪笥から、緑の葉っぱをちぎっていく。
箪笥はご機嫌で、真ん中の引出しをバンバン打ちつけながら開閉している。
それをじっと見る少年は、片足を立てて座っている。
時折、顔の半分を膝に埋めて、目線はそのままじっと見ている。

箪笥は日毎に形を変える。
開く場所も変われば中身も変わる。
壊れかけたピエロの頭やびっくり箱は常連だ。
新しく、淡いピンクの石のネックレスと小さな鉢植えを発見した。
少年の眼差しは次第に不穏さを帯びる。
爪がボロボロになるまで噛んで、血が出ているのを吸っている。

少年が何か食べているのを初めて見た。
生気のない冷たい顔しかしなかった彼が、途端に人間臭くなった。
親指を吸う赤ん坊のイラストを思い浮かべる。
少年はまっすぐな黒髪だ。
長い前髪の奥に暗い瞳を飼っている。
手に触れようとして近づくと、振り払われてしまった。

それもそのはずだ。
少年の目に映っているのは、黒い人型の塊だ。
畳の間はどこかに消えて、暗い空間にふたりになった。
少年は怯えて逃げ出す。
走って逃げる少年の背が縮んでいく。
はいはいするくらいまで歳を遡ると、ダリの絵の時計のように歪んで垂れて黒に沈んだ。

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