あの娘、どこまでいったんだろう?

今思えば、片思いだったのだろう。
フルスイングでメンヘラな女の子。
いつも彼女は自分を探していた。
バンド活動をやってみたり、漫画やイラストを描いてみたり、動画配信をやってみたり、どれも中途半端に終わった。
今は小説を書いているが、どこかに持ち込むわけでもネットで公開するわけでもない、書いているといってるだけなのだろう。

生まれつきのルックスと化粧と衣服のセンスだけはよく、男が尽きたことにない。
四ヶ月持てばいい方で、長続きはしない。
「自分には女しか価値がないのかもしれない」
というわりには、そこに自分の価値を求めてはいない。
セックスがしたいだけの男達と一緒にいられるはずがない。
それでも求められる欲求だけは満たしたいようで、とりあえず付き合ってはみる。
僕からすれば自分をさらに空っぽにしていってるようにも見えた。
彼女との付き合いは、僕の友人と彼女が付き合ってトラブルを起こし、その仲裁に入ったときからだ。
月に二回はファミレスや居酒屋で二人でなんとなく話す。
そんなのが三年は続いている。

彼女の極端な自己肯定と自己否定を僕は延々と聞いて、なんとなく考えたことを話す。
彼女は僕の言うことはすべて違うと否定する。
理想の自分でなければダメ、人からも理想の自分の形で見られたい、でもその理想がよくわかっていない。
絶望的だ。
「あんたにはあたしはわからない」、彼女との会話はいつもこの一言で終わる。
それからお互い好き勝手にスマホを眺めながら小一時間くらいダラダラ過ごして僕らは解散する。
こんな一見ムダな時間を僕は慣習のように過ごしてきた。
誰にも彼女との関係は話していないが、このことを聞けば皆、僕を変わりもんだと思っただろうし、彼女と会うのを止めようとしたことだろう。
でも、そういうことじゃないんだ、好きだったんだ、たぶん、おそらく。

「海を見に行く」
そんな一言がLINEに届き、何とはなしに
「おきをつけて」
と一言、返信した。
それを最後に二ヶ月ほど連絡もなく、気になったので住所だけ知っていた彼女の家に行ってみた。
もぬけの殻だった。
大家に聞いてみたところ、一ヶ月半前に引っ越したらしい。
行き先はもちろん聞けないし、聞く気も起きなかった。
ネットを通じて、特に連絡を取ろうとも思わなかった。
海を見に行って、そのまま海岸線に沿って歩き出した彼女を想像した。
どこに向かうのかもおぼろげなまま。

あれは片思いだったんだろう。
だからこそ、彼女には今でもたどり着けるはずのない自分探しをしていて欲しいと思っている。
絶望的なあの娘と僕だからこそ、あの時間があったんだ。

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