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美術展雑談『コレクター福富太郎の眼』

「コレクター福富太郎の眼」あべのハルカス美術館。実業家の福富太郎氏のコレクション展です。

 キャバレー王と呼ばれた富豪の絵画コレクション。それだけを聞けば、脂ぎったイケイケの成金オヤジがあくどい手法で儲けた札ビラで高名な作家の高価な作品を高尚な知識人気取りで買い漁っては取り巻きのイエスマンたちに自慢していい気になっている鼻持ちならない光景を(少々の悪意をもって)想像してしまいます。

 しかし実際の福富氏は独自の審美眼のみを頼りとして作家の有名無名を問わず吟味し、気に入った絵のひとつひとつを深く愛した人でした。さらに購入の意志を小出しにしながら画商の心理まで読んで価格を交渉するという、食えない商売人でもあります。実に人間臭い魅力を感じます。

 本展の展示の多くは美人画です。しかしただきれいな女性の絵を並べているわけではありません。一見してわかるほどの、ワケアリの人たちばかりが描かれています。

 思わず見惚れてしまう「道行」(北野恒富)や「妖魚」(鏑木清方)などはまさに、誰にも知られない場所で息を潜めている、捨てられ追われた人の写し絵でしょう。その表情に浮かぶのは絶望なのか恨みなのか、ただエロティックな妖しさが感じられます。

「金のために身を売る女でも、毒婦というのか多情でふしだらな女でも私はいっこうに構わない。スッピンのやつれた面差しで、時折咳き込んだりする女なら、なお堪らない。恋愛対象というのではないけれど、そういう女性にこそ、無性に心惹かれるのだ」(解説文より)

 福富氏はその言葉のとおり、陽の当たらない世界に生きるしかない女性のどうしようもなさや情念を愛し、寄り添い続けました。ビターな現実を噛みしめた人の眼差しは強く鋭くシビアでいて、なおロマンティックです。


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