〔ショートストーリー〕風薫る
風薫る。昔、日本という国には、そんな言葉があったそうだ。五月ごろ、若葉の間を吹き抜ける風のイメージらしい。とても美しい言葉だと思う。
僕らの遠い故郷、地球という星は変わってしまったそうだ。度重なる戦争や自然災害で、土壌も空気も水も汚染され、生き残った人間は地球を捨てた。いや、人間が地球に捨てられたのかも知れない。
僕らの祖先はこの星に移住し、それ以来、ずっと人工的に作られた狭い居住スペースで生活してきた。大きな争いもないが、夢も将来の希望もない。ただここを維持するために決められたカリキュラムをこなし、与えられた栄養をとり、睡眠も運動も全て管理されて生きている。
空気も水も人工的に作られているから、地球にはあったという森林も川も海も必要ない。いや、作りたくとも、そんな余分なスペースがないのだ。本物そっくりらしい花や木々が居住スペースの端に飾られているが、それらは色も形も香りも変わらない。当然、そこを心地良い風が渡ることもない。
風薫る五月。その言葉の本当の美しさを、僕らは誰も知らない。
(完)
こんばんは。こちらに参加させていただきます。
せっかくの美しい言葉が、なぜこんなストーリーになってしまったのでしょう。それに、こんな風な世界を、前にも書いたような気がします。でも…気にしないことにします!うん、開き直ろう!
小牧さん、お手数かけますがよろしくお願いします。
読んでくださった方、ありがとうございました。
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