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まだ絶望的ではない。日韓は予防接種開始に向けてピッチを上げている

 東アジア諸国はワクチン接種が遅くなることで、他国の失敗から教訓を得ることが出来るが、より感染力が強く、より致命的な亜種の出現リスクも同時に抱え込むことになる。

By Motoko Rich and Hikari Hida
2021年1月31日

東京発:日本は夏季オリンピックを安全に開催できる事を世界に納得させようとしているが、大都市のいくつかはコロナウイルスによる死者が増加しており、緊急事態宣言下にある。韓国では最近になって急増している感染者数を抑制するため、五人以上の集会を禁止した。香港では感染者数増加を食い止めるため、最貧地区のいくつかに厳格なロックダウンを課している。

 しかし、いずれの都市も、パンデミック発生を抑制するための唯一の解決策である、ワクチン接種の実施には着手していない。

 米国や欧州のほとんどの国、アジアの巨人である中国やインドがワクチン接種を始めているのに対し、日本、韓国、そして香港の歩みはひどく遅いもののように見える。

 日本はウイルス禍の最前線で働く医療従事者にさえ、二月末までワクチン接種を開始しない。韓国も同様で、65歳以上の高齢者に対する接種は五月からだ。中国の半自治領である香港では、二月中旬から『ハイリスク層』へのワクチン接種を開始する。

 比較的、三つの東アジアの経済大国には余裕がある。最近増加した感染者数にもかかわらず、彼らは米国や英国を荒廃させた類のアウトブレイクを経験していないからだ。三つの政府は標準的な規制審査の後にワクチンを承認し、円滑なワクチン投入のためのロジスティクスの基礎を構築していると語っている。

 「日本、韓国、香港は公衆衛生管理と予防を強力に精励することにより、疫病からの負荷を強力に管理する事を可能にしているという、羨ましい立場にあります」と、デューク・グローバル・ヘルス・イノベーション・センターの創設ディレクターであるクリシュナ・ウダヤクマル博士は述べている。「つまり、ワクチン接種か否かという話ではありません。ワクチン接種を加速させる必要性をより強く感じている国こそが、最も苦難にさらされている国なのです」

 より感染力が強く、恐らくは致命的なウイルスの亜種が世界中で出現しているさなか、ワクチン接種の遅延は疲弊した国民を保護し、状況の平常化を図る政府の努力を阻害する可能性がある。

 しかし、接種の遅れは悪い事ばかりでもない。後発国は欧米を悩ませている、ワクチン供給の問題、貯蔵のための冷凍庫の問題、そして誰が最初に接種するかの議論に振り回されているワクチンキャンペーン全般の問題から、教訓を得る時間を与えられるからだ。

 東アジアの政府はより慎重に行動することで、速すぎるワクチン開発スピードに対する、国民の懸念を和らげることが出来るかもしれない。世論調査によると、日本と韓国においては、多くの人が即時のワクチン接種に消極的である。

 「本当にボトルネックとなるのは需要側でしょう」とウダヤクマール博士は語る。「実際に人々にワクチンを受け入れさせる事が出来るのか、そしてワクチン接種による集団免疫を達成するために、充分な速度で実施することが出来るのでしょうか?」

 供給側もまた、展開速度を制限する可能性がある。香港は一月にファイザー社のワクチンを承認したが、日本も韓国も未だ承認には至っていない。両国は共に全人口分以上をカバーするに充分な量のワクチンを確保するため、複数のワクチンメーカーと契約を結んでいる。メーカーはこれらの注文や他の多くの受注をこなすために奔走中だ。

 高麗大学の感染症の専門家であるキム・ウジュ氏は、「ワクチンが確保出来れば、韓国は世界のどの国よりも早く接種を進めることが出来ます。これは韓国の得意分野です」と語る。「問題は、ワクチンが適切な時期に届くかどうかが不確実であり、保証もされていないことです」

 さらに言えば、日本にはもっと緊迫した期限が設けられている。政府は、オリンピックの実現可能性についての疑念が高まっているにもかかわらず、開催を進めると主張している。もともと東京五輪は2020年に開催される予定であったが、今夏に延期された大会は、7月23日の開幕を予定している。

 国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長は一月、選手やオリンピック関係者など、大会のために東京に行く可能性のある人々に「各国の予防接種ガイドラインに沿って、日本に行く前に自国で予防接種を受けるように」と呼びかけた。

 しかし、予防接種は必須ではないと関係者は述べている。菅義偉首相は一月の国会における五輪開催についての答弁で、「感染症対策をしっかりと行うことで、ワクチンを前提としない安全・安心な大会開催に向けて準備を進めている」と述べた。

 そのため、日本ではこの夏、ワクチン未接種の人々が大勢で渡航してくるのではないかという懸念が高まっている。逆に言えば、日本で競技に参加する選手達は、大勢の日本人がワクチン接種を済ませていれば、安心して来日するのかもしれない。

 こうした圧力が強まる一方で、政府からは迅速な接種スケジュールへの期待を下げている徴候が見られる。先週、コロナウイルスの予防接種を管理するために任命された閣僚である河野太郎大臣は、65歳以上の住民が予防接種を受けられるのは、少なくとも四月になってからだと述べた。集団免疫の形成は、オリンピックの数ヶ月後まで成されない可能性が高い。

 日本政府にとってのもう一つの大な問題は、日本人が世界で最も高いレベルのワクチン懐疑論を抱えている国民であることだ。メディアに煽られた誤った情報が、これまでのワクチンキャンペーンを妨害してきたのである。

 子宮頸がん予防のためのヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンが2010年に日本に導入された時、国内メディアは、接種を受けた一部の少女が副作用で苦しんでいると大々的に報じたが、後に専門家がワクチンと少女達の症状との間に関係は無いことを発見した。

 しかし、こうした報道の記憶は、たとえ曖昧なものになったとしても、いまだに世論に影響を与え続けている。

 東京に住む半引退したコンサルタントのイノウエカズオさん(68)は、「しばらく様子を見よう」と言う。

 「一般的に新しいワクチンや新薬には副作用がある」と彼は語る。「以前にも何件かありました。ワクチンの名前は忘れましたけど、女の子用のワクチンで、HPVのための新しいワクチンで、多くの人々に多くの副作用を起こしましたよ」

 東京で美容師をしており、三人の幼い子供の母親でもあるヤマオエリカさん(33)は、真昼間のトーク番組で有名人の司会者がワクチンの副作用の可能性について警告するのを見ていたという。彼女はワクチンが利用できるようになったとしても、接種を受けるのには抵抗がありますと語る。

 「実際にどの程度、私を守ってくれるのか分からない」「ワクチン絡みのリスクは数多くあります」とヤマオさんは語った。

 政府の顧問は、ワクチンを宣伝するための公衆衛生キャンペーンは、注意深く行わざるを得ないだろうと語っている

 「ワクチンを接種してくださいというだけでは、さらに大きな反発が出ると思います」と語るのは、川崎医科大学教授にして厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会のメンバーでもある中野貴司氏だ。「人々は『なぜ彼は政府が後押しする危険なワクチンを私に勧めてくるのだろう?』と考えるかもしれません」と彼は語る。

 国内での懸念を和らげるため、ファイザー、モデルナ、アストラゼネカの三社は、厚労省からの承認を得る前に、日本国内で小規模な臨床試験を行っている。日本政府は三社と契約を結んでおり、最近ではアストラゼネカの開発したワクチンを国内製造する計画を発表した。

 当局者は政府がオリンピック開催を後押ししていることを踏まえ、予防接種キャンペーンをオリンピックの成功に結びつける事を特に懸念している。

 「ワクチン接種とオリンピックは切り離して考えるべきだ」と、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室の新川俊一氏は、インタビューで語った。「ワクチン接種は国民のため、日本の人命を守るため」とも彼は語る。

 一部のアスリートもまた警戒している。一ノ瀬メイさんはパラリンピック競泳日本代表選手として、現在オーストラリアのブリスベン近郊でトレーニングを行っているが、ワクチンが自分のパフォーマンスに影響を与えることを恐れているかと聞かれたことがあるという。

 「パフォーマンスはさておき、私は一人の人間として、接種するのが100%安全だと感じるかどうかは分かりません」と彼女は語った。「ワクチンは普通、作られるのに多くの時間がかかります」「でも今回のワクチンは、あまりにも早く作られたので、安全性が心配です」と彼女は付け加えた。

 ワクチンを接種するかどうかの判断は、「本当にやりたいことができるかどうか」で決まる場合もある。

 東京で美容師をしているヤマオさんは、大阪の両親に会えるなら接種すると語っている。

 「もしワクチンなしじゃ新幹線に乗れないのなら、接種を考えます」と彼女は語る。「それが最後の手段だから」
(ソース:The New York Times 
Not Yet Desperate, Japan and South Korea Plod Toward Vaccinations

 はい、今回も翻訳記事です。誤訳、ミスタイプ等ありましたらご一報をお願いいたします。

 にしても…にしても…“真昼間のトーク番組で有名人の司会者がワクチンの副作用の可能性について警告するのを見ていたという”この辺訳してて、ちょっと怒りに震えましたね。昼間は仕事でテレビ観てないから(家にいても観るか怪しいですが)実情は定かでは無いですが、未だにこんな事をしているのかと!
 HPVワクチンでの誤報によるネガティブキャンペーンによって、今後数千人の女性が死ぬと予想されているのに、その反省は全くゼロなのですかと、報道各社に問い詰めたいところです。地方のTV局では、良質な解説がなされていたりもするのですが…

 これこれ。こういうのを全国局で!朝から晩までやってる情報番組とやらで流さないと!いけないと思うのですよ!!
 記者の中には「政策の問題点を見抜き、政府が隠していることを暴くために取材しています」などと嘯いてるバカもいますが、そうじゃねえだろうと。
 まずは事実を正確に切り貼り無しで伝えるのが最低限のモラルであって、批判や意見は二の次にすべきでしょ。それが報道の責任ってもんじゃないですかね?あたいは、そう思います。


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