見出し画像

恋する生霊くんは応援したい【第三話】【note創作大賞2024】【漫画原作部門】


ここまでの話数のリンク

第一話のリンクはこちら

第二話のリンクはこちら



シナリオ・本文 
第三霊 「恋する生霊くんは応援したい」

 
○廊下の隅。
 
 全力疾走をした二人は息を荒げている。
 竜之介の手には凛の掌がしっかりと握られたまま。
 
竜之介「はぁ……はぁ……」
竜之介(こ、こここ、怖かったぁぁぁ!)
 
 凛は握られたままの手を見つめ赤くなっている。
 
竜之介「ここまでは、追ってこないよな?」
凛「梶くん……あの、その!」
凛(手が……その、つ、繋いだままだよぉ!)
竜之介「お化け役本格的で! 俺、すごくびっくりしちゃって。栗宮さんには恥ずかしい姿を見せちゃいましたね」
 
 竜之介が恥ずかしそうに凛へ視線を送る。
 顔を真っ赤にした凛と目が合った。凛の色づく頬、少し荒くなった息遣い、恥ずかしさに潤う瞳。
 ドキンと鼓動を大きくする竜之介。
 
凛「あ、あのね! 梶くん。慌てないで、聞いて欲しいんだけど」
竜之介「っ⁈ は! はい!」
竜之介(な! なんだ、この雰囲気は⁈)
 
 竜之介はこの時思い出した。教師たちが繰り返し言っていた「親睦を深める」という言葉を。
 
竜之介(も! もしかして! 俺達の絆が本当に深まってしまったのか⁈)
 
 これ以上ないほどに心臓を高鳴らせる竜之介。言葉を紡ごうとしている凛の唇に視線を奪われた。
 
凛「あの……。そろそろ、手を……」
竜之介「手?」
 言われるがまま、竜之介は右手を持ち上げる。ぎゅっと握られた凛の掌を収められていた。
 きゅぅぅぅ! と赤面を濃くする竜之介。
 
竜之介「俺、ずっと、栗宮さんの……手を⁈」
竜之介(温かい! スベスベで! 柔らかぁぁい!)
 
 竜之介の羞恥心ゲージは最高値に、トキメキ指数はボンッとはち切れた。
 突然、竜之介の手からスッと力が抜けた。凛の手が解放される。
 ずるずると竜之介は腰が抜けるように壁に沿って、床へと座り込んでしまう。
 竜之介の顔を覗き込むように、凛は声をかけた。
 
凛「梶くん、大丈夫⁈」
竜之介「うん、大丈夫。というか俺の方こそごめん! ずっと手を握ってしまっていたみたいで……」
凛「ひゃっ?!」
 
 凛が驚きに声を上げた。目の前で座り込む竜之介からではなく、凛の背後から竜之介の声がする。
 凛は急いで振り返る。生霊・竜之介がふわりと浮かんで立っていた。
 
凛「か……梶くん! その姿?!」
生霊・竜之介「え⁈ うわ‼︎ また出てきちゃった‼︎」
凛「生霊化しちゃったの? え? どうして?」
生霊・竜之介「えっと……その。お恥ずかしながら、栗宮さんと手を繋いでいたことにびっくりして……俺は気絶してしまった……みたいです」
凛「手を繋いで、びっくりして、気絶?」
 
 目を丸くする凛。座り込んで気を失っている本体の竜之介と、目の前でモジモジと恥ずかしそうにしている生霊・竜之介を交互に見つめた。
 
凛「ふふっ! あははは!」
生霊・竜之介「あ! 栗宮さん! 笑わないでよぉ!」
凛「ごめんなさい! だって、梶くんがあまりにも純粋で!」
 
 困ったように眉を下げる竜之介と、相変わらず笑っている凛。凛に釣られて次第に竜之介も笑い始め空気が和やかになる。笑いすぎて涙目になった瞳を拭い、凛は言葉を紡ぐ。
 
凛「でも、よかった。私、梶くんに嫌われちゃったのかなって思っていたから」
生霊・竜之介「ど⁈ どうしてそんな⁈」
凛「梶くん、話しかけてくれなかったから。やっぱり私が霊感少女だって、気持ち悪かったのかなって……思っちゃって」
 
 凛は表情を誤魔化すように指先で髪を触った。視線は下を向いてしまっている。
 竜之介はいてもたってもいられずに、思わず声を上げた。
 
生霊・竜之介「そんなわけない! 俺は……栗宮さんのことを!」
 
 言葉を言いかけ、竜之介は止まった。
 
凛「?」
 
 竜之介を見つめ返す凛。
 
生霊・竜之介(っ! い! 言えないよ! す、好きだ──なんて!)
生霊・竜之介「栗宮さんが、す、すごく良い人だって知ってる! だから、俺が栗宮さんを嫌うなんて、絶対にないよ!」
 
 竜之介の言葉に照れる凛。
 
生霊・竜之介「話しかけなかったのは、話しかけられなかったからなんだ」
凛「……え?」
生霊・竜之介「生霊の時の記憶は、本体には引き継げないみたいなんだ。いまの俺は、生霊の時も本体の記憶もちゃんと全部あるんだけど」
凛「それって、本来の竜之介くんは自分が生霊になっているのを知らないってこと?」
生霊・竜之介「うん。栗宮さんを避けていたみたいになってしまって、ごめん!」
 
 生霊・竜之介が凛へ頭を下げる。凛は慌てて言葉を返す。
 
凛「私の方こそごめんね! 勝手に誤解しちゃって!」
生霊・竜之介「俺の方こそごめん!」
 
 謝り合う二人。しばし見つめ合い。同時に吹き出した。
 
凛「私たち、謝りあいっこしてる!」
生霊・竜之介「ははっ! じゃ、おあいこってことで!」
凛「うん!」
 
【和やかな雰囲気も束の間に……物語は急展開を迎えてしまう】
 
○廊下の隅
 
 廊下の奥から漂う異様な雰囲気。どす黒いオーラ。寒々しくなる空気感。
 凛は青ざめ、肩を震えさせる。
 尋常ない凛の様子を見て、何かを察する竜之介。
 
生霊・竜之介「っ! もしかして! 栗宮さんアレって!」
 
 凛はプルプルと震えながらコクリと頷いた。
 
凛「夜の校舎でお化け屋敷をやっちゃったから、本物が寄りついちゃったんだと思う」
生霊・竜之介「結構やばい奴?」
凛「悪霊……だと思う。に、逃げないと!」
 
 凛が竜之介に手を伸ばす。しかし、凛の手は生霊化している竜之介の体をすり抜けていった。
 
凛「っ!」
生霊・竜之介(生霊のままじゃ、栗宮さんの手を引くことも出来ない!)
生霊・竜之介「栗宮さんだけで逃げるんだ!」
凛「で! でも、梶くんは⁈」
 
 凛は、生霊・竜之介と本体・竜之介を交互に見た。
 
生霊・竜之介「俺がなんとかする! 俺がお化けの気を引くから、早く!」
凛「そんなの危険すぎる! 私も一緒にいる!」
生霊・竜之介「だめだ! 栗宮さんは霊感がある。霊とは対峙しない方がいい!」
凛「だ! だけど!」
生霊・竜之介「心配しないで。俺、この姿が誰にも視えないってわかった時、孤独で不安だった。だけど、そんな時に栗宮さんが俺に話しかけてくれて……本当に嬉しかったんだ」
 
 竜之介は真剣な眼差しで凛のことを見つめた。
 
生霊・竜之介(いつもの俺だったら絶対こんなこと言えないけど。魂の姿だからかな? 剥き出しのままの俺の心を、今なら話せる気がする!)
生霊・竜之介「あの時、俺は栗宮さんに救われた! だから! 今度は、俺が君を守る番だ!」
 
 竜之介が凛に背中を向ける。悪霊に向かってギッと睨みを効かせた。
 
生霊・竜之介(栗宮さんは、俺が守る!)
凛「梶くん!」
生霊・竜之介「不思議なんだ。生霊の時って、いつもより勇気が出るんだ! 大丈夫。今の俺なら出来ると思う!」
凛「梶くん……」
 
 凛がジリっと足を一歩後退させた。
 
凛「エスケープポイントに行って、非常出口の鍵を借りてくる! 絶対、戻ってくるから!」
 
 走る凛を見守って、竜之介は悪霊に向かって駆け出した。
 
生霊・竜之介「お前の相手は、俺だ!」
悪霊「ウゥウゥワタシ綺麗でショォォ」
生霊・竜之介「本当に綺麗な人はそんなことは言わないよ‼︎」
 
○廊下の隅。
 
 竜之介の本体は廊下の床に座り込んだままだ。
 
凛「梶くん? 梶くん⁈」
 
 竜之介の眉間がピクリと動く。竜之介の魂は本体に戻ったようだ。
 
竜之介「あれ? 俺?」
凛「気がついた? 梶くん気を失っていたんだよ? 私、エスケープポイントに行ってきたの。リタイアしよう?」
竜之介「気絶? そっか、俺……。ごめん、栗宮さん」
凛「私もリタイアしたいなって思っていたの。だから、ね?」
凛(梶くんは、無事に本体に戻れたみたい。悪霊もいなくなってる)
 
 凛は当たりを見回して、ほっと安堵のため息を落とした。
 二人は校舎から出るために、非常口の扉を開けた。
 
竜之介「栗宮さん、本当にごめん。俺、あまり覚えていなくて」
竜之介(気絶なんて情けない! 絶対幻滅されてるよ!)
 
 肩を落とす竜之介。
 竜之介の制服をツンツンと凛は引っ張った。
 
凛「ねぇ? 梶くんは知らないかもしれないけど。私、梶くんと一緒のペアでよかったって思ってるよ!」
 
 凛の特大スマイルに、ドクンと竜之介の胸が一際大きく高鳴った。
 その瞬間、竜之介の瞳が虚になった。
 本体がスタスタと歩いていく。
 取り残されたのは、凛と生霊・竜之介だ。
 
凛「え? 梶くん⁈」
生霊・竜之介「あれ⁈」
凛「さっきまで、本体の中にいたよね?」
生霊・竜之介「う、うん。栗宮さんと話したいって思ったら飛び出しちゃったみたいだ」
 
 竜之介は「おかしいな」「なんでこんなに簡単に出てきちゃうようになったんだ」とブツブツと呟いた。
 竜之介を見つめて笑い出す凛。
 
凛「ふっ、ふふふ!」
生霊・竜之介「栗宮さん、笑わないでってば! って! 俺の体がもうあんなに遠くまで歩いてる!」
凛「あっはは! 私、梶くんといると笑いの沸点が下がっちゃうみたい!」
 
 竜之介はまんざらでもない様子で「まいったな」と首の後ろを掻いた。
 
凛「ねぇ? 守ってくれてありがとう!」
 
 凛の笑顔が街頭に照らされて輝いている。トクン、と竜之介の心にトキメキが溢れる。
【そして梶竜之介は思いついた】
 
生霊・竜之介(俺は人見知りで、引っ込み思案で、女の子にまともに話すこともままならない。栗宮さんにお近づきになるなんて絶対無理。だけど、生霊の時は少しだけ勇気が湧いてくる。だから!)
 
 竜之介は隣を歩く凛へチラリと視線を向けた。
 
生霊・竜之介(この生霊化を利用すれば、栗宮さんにアプローチ出来るかもしれない! 生霊になって、俺は俺の恋を全力で応援するんだ!!)
 
【梶竜之介(生霊)による、梶竜之介(本体)のための、恋の応援大作戦、まもなくスタートです】


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?