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なぜ大阪はこんなことになってしまったのかー水道橋博士「藝人春秋3」ー

水道橋博士の「藝人春秋3」を読んだ。

ページをめくりながら何度も笑ってしまった。

地上最強を決める対決、武井壮VS寺門ジモン。

新幹線内の因縁の遭遇?三谷幸喜VS井筒和幸。

未遂に終わった石原慎太郎VS大橋巨泉。

芸能界にも政界にも顔が広い博士だからこそ描ける「嘘みたいな本当の話」は、普通のメディアにはでない華やかに見える芸能人達の根っこの本当に魅力的な(笑える)一面をみることができる。

しかし、こんなに面白いこの本の中でも笑えないところがある(博士がスベっていると言いたいわけではない)。それこそ、博士がこの本で覚悟を決めて描いている部分だと感じた。

それは、2013年の博士の生放送降板劇の一幕だ。

博士は、「たかじんNOマネー」の生放送中に、橋下徹(当時、市長)の「小銭稼ぎのコメンテーター」という発言に怒り、「小銭稼ぎだと冒頭で言ったんで、ぼく今日で番組降ろさせていただきます」とスタジオから出て行ってしまったのだ。

この件は、当時、ネットでも大きな話題になったと記憶している。ここだけを見ると、なぜ、博士がここまで激怒したのか、生放送中に降板するほどのことなのかは全くわからない。しかも、橋下の発言は、博士に向けたわけでもなかったのだ。そして、そのことを博士も当然、理解していた。では、一体、なぜ、、、?

答えは、本書に描かれているので、ぜひ読んでもらいたいが、博士の怒り、または焦りは、この橋下発言から始まったわけではなかったのだ。

ここで描かれている物語(いや、事実)に、私は大阪で、なぜここまで維新の会が台頭したのかようやく分かった気がした。

やしきたかじんというとてつもない才能と大阪の地域性、そして、たかじんの番組で見出された橋下徹の存在。これらが重なりあって生まれた現象だったのではないだろうか(私は、仕組まれたというよりは、何かしらの偶然性を感じてしまうが)。

かなり昔、TSUTAYAで偶然見つけた「たかじんのそこまで言って委員会」を見た時、私は驚いた。それは、従軍慰安婦問題について議論していた回が収録されていたのだが、出演者のほとんどの見解は、「強制連行はなかった」というものだった(田嶋陽子だけは違っていたと記憶している)。議論は、そこから「広義」の強制連行はあったのか、なかったのか、という話になったと思うが、これはまだ、朝日新聞が従軍慰安婦についての誤報を認めるずっと前の話で、「強制連行」が歴史的事実だと思っていた私は、かなり驚いた記憶がある。それに、こんなに政治的にデリケートな話を、ざっくばらんに話し、しかも、堂々と右よりの主張を昼のバラエティとして流している大阪の地域性にも驚いた。

そして、その番組には、まだ若い橋下徹が、今とは全く違ういじられキャラで登場していた(昔の行列のできる法律相談所の時もそんなキャラだった気がするが)。しかし、その時も、いじられつつも、自身の思想(右より)をしっかりと発言していて、法律相談所とは違う一面があるのだなと思った。

この文を書くにあたって、Wikipediaで確認したところ、橋下徹はこの番組にレギュラー出演していて、なんと200回以上も出演していたそうだ。そして、このお昼のバラエティにしては、かなりデリケートな政治問題も扱う「たかじんのそこまで言って委員会」は、「そこまで言って委員会NP」と番組名を変えて、今も高視聴率をたたきだしている(10〜15%!!)。

これは、私の想像だが、橋下徹は、この番組を好んで見る、少し(かなり?)右よりな大阪府の県民性により、知事として選ばれ、そして、大阪維新の会は誕生したのではないだろうか。

この番組を制作しているボーイズという会社(博士はこの会社の代表取締役を黒幕と呼ぶ)は、あの「ニュース女子」(沖縄基地反対運動に関わる人々を「テロリスト」、「犯罪者」などと表現してBPOから「重大な放送倫理違反があった」と公表された)も制作に関わっているのだから、いろいろ察してしまうところはある、、、。

現在の「そこまで言って委員会NP」には、竹田恒泰(差別主義者であると言われたので、言った相手を訴訟したが、あまりにも差別的な発言をしていたので敗訴した人)がレギュラー出演している。

彼が第二の橋下になるかどうかは、わからない。

しかし、これだけは言える。

博士の、あの日の「怒り」は、正しかったのだ。

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