【短編ホラー】七夕祭り
あれは本当に嫌な出来事でした。
僕が大学生の頃バイトしてたショッピングモールでの話なんですけど、毎年七夕の時期はおもちゃ屋さんの前にある広場に大きな笹をいくつか飾って、お客さんに短冊を書いてもらってたんです。
で、土日なんかはやっぱり人手が足りなくて僕もそのイベントに呼ばれることがあって、その日も手伝いに行ってたんですね。
ぶっちゃけいつもやってる食品コーナーの品出しより100倍楽だったんで、「ずっと七夕やってくんないかなぁ」なんて思いながら過ごしてました。
昼過ぎくらいだったかな、仲の良さそうな30代くらいの夫婦と小学1年生くらいの男の子の家族連れが来まして、短冊渡して長机で書いてもらったんですね。
で、なんとなく男の子の短冊を見てみるとガタガタな字で「おかあさん」まで書いてあって、なんかうるっと来ちゃって小声で「お母さんのこと書くの?」って聞いたんです。
そしたら「うん、おかあさんびょーきなの」って。
改めて隣で書いてるお母さんを見てみると、確かにけっこう痩せててあんまり健康じゃないのかなって思っちゃう見た目してて、「ああ、この子はなんて優しい子なんだ」なんて思いながら鼻ほじって食べてたら、男の子が「出来た!」って短冊を渡してきたんですね。
見てみると、
『おかあさんがはやくしにますように』
そう書いてあったんです。
ヤバい、これは絶対に見せちゃダメだって思って、握りつぶしてクシャクシャにしました。で、すぐにポケットに入れようとしたらその子のお母さんが「なにしてるの!」って僕の腕を掴んだんです。
もうパニックですよ。
なんて説明すればいいのか、どうしたらいいのか分かんなくて。
で、お母さんに腕を掴まれたままわたわたしてると、お父さんがすごい顔でこっちに来て、頭真っ白になって「ちょ、あの、ダメです」とか言ってる僕の指を無理やり開いて、短冊を取っちゃったんです。
開いた瞬間目がまん丸になって絶句してました。
で、咄嗟に「あの、息子さんくらいの歳頃の子って、こういう『死』とかにやたら興味があってですね、あんま意味とか分かってないと思いますよ」って感じのフォローなのか男の子を貶してるのか分かんない微妙なフォローをしたんですけど、お父さんは固まったままで。
とりあえず「ボク、なんでこんなこと書いたのかな?」って聞いてみたらその子、「ミカさんのほうがキレイだから」とだけ言っておもちゃ屋さんのほうに走っていっちゃって。
そしたらお母さんが「嬉しいこと言ってくれるわね」って小さく笑って男の子を追っておもちゃ屋さんのほうに歩いていったんです。
ああ、この人はあの子のお母さんじゃなくて「ミカさん」なんだなって気づいちゃって、お父さんのほうを見たら気まずそうな顔をしてました。
すぐに僕に「すみません」って会釈をして2人のほうに走っていったんですけど、3人の後ろ姿を見てたらすごく悔しくて許せなくて、悲しい気持ちになったのを覚えています。